二次創作:お宅訪問
本日、ワタクシももせは望海可純先生のお宅にお招きされちゃいました!
と言っても、ただ資料を届けに来ただけなんですけど。
アシスタントとはいえ、オンラインで完結してるから、滅多に会えない先生に直接お目にかかれるこの機会は超・貴重! 去年の暮れは望海先生のご都合で、謝恩会からの二次会兼ねての望海先生のお宅での望海組の忘年会もなかったし。
いざ!
呼び鈴を鳴らして、待つこと数秒。
「わざわざごめんね〜。届けてもらっちゃって」
はぁ〜、毎度麗しい、望海先生……。
「いえいえー、近かったので」
「お茶入れるからどうぞ上がって〜」
望海先生はニコニコと出迎えてくれて、ダイニングへの扉を開けてエスコートしてくれる。なんて紳士的!
「じゃあ、確認させてもらうね」
ダイニングテーブルの一席に案内され、望海先生に依頼された資料と領収書を渡し、お茶をいただく。
いつ見てもきれいなお家。こんな広いお家に望海先生おひとりで住んでるなんて。とはいえ、女の影があってもそれはそれで嫌なんだけども。こんなに素敵な望海先生なんだから、それにふさわしい才色兼備のお相手なら……、でもでも……。
なんて不埒なことを考えていたら、望海先生の向こう側で扉が開いた。
お客様……? それにしては、なんだか、ラフすぎる格好な気が……。そこそこ美人ではあるけど、なんだか病的な肌色の白さが不健康そうだし、艶はあるけど伸ばしっぱなしのような無造作な髪で……。猫背気味で根暗そうで……。ああ、ダメダメ、こんな不躾にジロジロと見ちゃっては。
「ん? ああ、去年から彼と一緒に暮らしてるんだ」
“彼”と言われたその人は、慣れた様子でキッチンに向かう。あ、男の人なんだ、と少なからず安堵する。
「矢晴。彼女はアシスタントのももせさん。資料届けてもらったんだ」
“矢晴”と呼ばれたその人は、望海先生の紹介に私に一瞥くれて、小さく会釈した。ちょっと感じ悪い……かも。とはいえ、望海先生に一緒に暮らしている人がいるなんて、大ニュースじゃないの?
「ももせさん、彼は私の同居人」
「望海先生のアシスタントをしてます、ももせです! よろしくお願いします!」
私は元気よく挨拶できるんだから! なんて、どこで張り合っているのやら。
挨拶のために立ち上がった私が座り直すと、望海先生が少し身を乗り出して、声を落として言った。
「みんなには内緒にしててほしいんだけど、彼ね、古印先生なんだ」
へ!? こいんせんせい……って、あの? あの!? あの、望海先生に天才と評される!? この人が!? あの、古印葵先生!?
えーーー??
と驚きながら、頭のなかで走馬灯のように一連の出来事が思い出される。
望海組のグループトークで、望海先生が『天才といえば古印葵先生』と発言した後、グループトークを退会してしまったあの一件。アシ仲間で明後日に盛り上がってしまったのは反省すべきことだったけど。あの後のグループトークの阿鼻叫喚は忘れられない。
後日の作業通話で『うっかりミス』なんて望海先生は言ってたけど、絶対ミスじゃないし! 望海先生のアシスタントの間では『古印葵の話題に迂闊なことを言うと、ヤバい』という共通認識が出来ていた。
実際、何を言うのが正解なのか、わからない。迂闊なことを言って失敗して、アシスタントをクビになるとか総入れ替えとかなら、まだマシだろうけど。それはそれで勤め先がなくなって困るけど。望海先生が漫画家辞めるかも? ぐらいまでの最悪を想像してしまった。
ああ! でもでも、わざわざ望海先生が、今ここで顔を合わせたからといってもいくらでも誤魔化せるのに、私にだけ、あの人が古印先生だと教えてくれたのは、私を信頼してくださっているからだと思うし! なにか、気の利いたことが言えればいいのだけど!
「あの! 私! 読みました! 古印先生の本!」
テンパり気味に口走った言葉は、思いの外、大きな声になってしまった。キッチンにいる古印先生がぎょっとした顔をするのが見え、視線を近くに戻せば、望海先生が嬉しそうにニコニコしていた。
正解だった……っぽい?
正解か不正解かなんて関係なく、望海先生が天才と評する古印先生に興味を持ったのは事実だし、あの時は望海先生のオススメは聞けなかったけど、結局自分で単行本を買って読んだ。
望海先生がなにをもって“天才”とまで言うのかはわからなかったけれど、絵もストーリーも漫画として“スゴイ”ことだけはわかる。その程度の浅い自分に嫌気がさすが、好きか嫌いかでいえば、古印葵先生の作品は、好きな漫画だ。
「望海先生がエモーショナル系って言ってた意味がわかりましたー。すごく素敵でしたー」
と感想を述べれば、望海先生は嬉しそうに笑う。
望海先生って、本当に古印葵先生の作品が好きなんだ、とわかってしまう笑顔。
「純」
そのままオタク特有の早口で感想を言いたいところだったが、その前にキッチンから望海先生が呼ばれてしまった。
「ちょっと待っててね」
と言いおいて、望海先生は古印先生の元へ行ってしまう。
望海先生からいただいたお茶を飲みながら、キッチンで話すふたりを眺める。
小声で何を話しているのかは聞こえないが、仲睦まじい雰囲気。古印先生のお世話をするような甲斐甲斐しい望海先生の姿は、これまで一度も見たことがない柔和な笑顔で驚いてしまう。
わー……、こんな望海先生見ちゃって、いいのかな。
……ヤバい、すごい、乙女……。
えー……、望海先生って、古印先生の作品だけが好きなんじゃないんだ……。
と考えてる間に、古印先生はなにかを載せたトレーを持ってダイニングを出ていって、一緒に望海先生も出ていった。
さすがに、一人で待たされるのは辛いんだけど……。あ、でも私がいるから古印先生がここにいられなかったのかも、と思うと、自分の存在を滅したくなる。
数分後、戻ってきた望海先生は封筒を手にしていた。
「おまたせ〜。ごめんね、一人にしちゃって」
「いえいえ。私がお邪魔でしたよね、大丈夫ですか? 古印先生……」
「うん? 大丈夫だよ〜、ちょっと照れてたけど。本読んでくれてたの嬉しかったって」
と言う望海先生の言葉にちょっとホッとする。
「じゃあ、これ、立て替えてもらった資料代と交通費と、時間給」
「はい、たしかに」
受け取った封筒の中身を確認し、受け取りのサインをする。
もう少し、古印先生の作品について話が聞きたかったけれど、カップも空になってしまって、長居する理由もなくなってしまった。
「それじゃあ、私はこれで失礼します。ごちそうさまでした」
挨拶をして、望海先生の家を後にする。
“みんなには内緒”と言われたけど、言われずとも古印先生のことを誰かに言うつもりはない。それになにより、あんな望海先生のことを誰かに言ってしまうなんて、もったいない。
フフフ、望海先生、ゴチソウサマデシタ! ワタクシももせ、望海先生を応援します!
着手:2022/08/24
第一稿:2022/08/24
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