二次創作:裡
なぜ、私はここにいるのだろうか。
上薗純が、私に笑いかけるたび、そう思う。
甘言に惑わされ、ささやかな喜びすら取り落とし、すべてを失った私にもたらされた、僥倖。選択肢のないまま、不幸への道を選び続けた私に舞い降りた、なにか。
幸せをもたらす天使なのか、破滅へと導く悪魔なのか。私には判断がつかない。
物質的な幸福のなにもかもを手にしているような、こいつが、私の過去の遺物にすがり、なにもかもを失った私を宝物のように扱う。今の私には、こいつの求めるものはなにひとつとして生み出せはしないのに――。
有象無象の大衆が讃えて求める売れっ子漫画家が愛を注ぐのは私だけ――。
心の奥底から湧き上がる優越は、コールタールのようにどろりと黒く、臭う。自身の汚さに吐き気を催すが、一方で酩酊するような心地よさもある。
幸福の天秤は、お前の重さに微動だにしない。お前がすべてを失えば均衡を取り戻すかもしれないが、すべてを失うには多すぎて。そして、私はお前の重さに釣り上げられたまま、お前の手が届くことのない孤独にいつまでもいるのだろう。
無数の棘でつくられた私の乗る天秤の皿は、いつでもいつまでも私を傷つけるけれど、お前が笑いかけるたび、鋭い棘がひとつずつ柔らかく溶ける。溶けていく。
だから、いつまでも、私のそばにいて。私に笑いかけてほしい。そう願う。
着手:2021/11/29
第一稿:2021/12/03
コメント