二次創作:ペット

 純の〆切明けの夕食後、定例になったような映画鑑賞。ソファーでくつろぐ純を背もたれにする格好で一緒に画面を眺めている。
 純の家の大きなテレビは、映画館で観るのと大差ないくらいの迫力と高画質。映画館の椅子よりも座り心地のいい私専用の大きな背もたれの純。いや、私が純の抱き枕なのかもしれない。映画館ではできない感想合戦や他愛ないおしゃべり。純の趣味なのか、異国の風味のするハーブティーを飲みながら、穏やかな時間が流れる。
 ふと、画面のなかに生きている主人公たちとともに暮らすコミカルな動物たちが、もしここにいたら、という思いに駆られて、画面に注視したまま純に聞いた。
「純は、ペットを飼わないの?」
「んー。猫がいたらいいかなって思ったことはあるけど」
 ゆっくりと考えるように紡がれる言葉。こんなふうに話しているときには純の手がなにかを探しているように私の髪をもてあそぶ。
「昼間はあまり相手してあげられないし、打ち合わせで留守にする時間も長かったりするし、ロボットたちと仲良くしてくれるかわからないし」
――むしろこの家はロボット掃除機を飼っているようなものだし。それも6匹も。
 純の言葉を継ぐように頭の中で考えて、思わず笑ってしまう。
「でも今は、おっきくてかわいいのがいるから」
 髪をいじっていた指先が私の頬を撫でる。
「それ、私のこと?」
 と問えば、純は「ふふ」と声を漏らしながら私の体に腕を回して柔らかく抱いた。
――私が、ペット。
 確かに、今の生活は純に愛玩動物として飼われているようなものだ。働きもせず、衣食住すべての面倒をみてもらい純に養われている。家の中で無益に過ごして、時折じゃれつく純の相手をするだけの安穏とした生活。
「矢晴は? ペット飼いたい?」
 もし、飼いたいと答えたら、純は明日にでも犬なり猫なり連れてくるような気がする。飼うとすれば、優しくて大きな犬がいいような気がするが――
「私は……。もう、でっかいのがいるから……」
 純の右手を持ち上げて、頬へ運ぶ。その手のひらの温度を確かめるようにすりつけば、純の体が不思議なリズムで揺れるから私の体も揺れた。
 愛玩動物が与えてくれるぬくもりも、おそらく純が与えてくれる以上のものではないだろう。私を慕って向ける笑顔も、楽しそうにじゃれつくさまも、まるで大きなワンコだし。
「えへへぇ」
 喜びすぎな純の大きな手のひらが私の頭をかき混ぜるように撫で、視界をふさぐ。私の体は純の振動につられて大きく揺れる。
「こら、純、見えない」
 そうたしなめるように言うと、純は慌てて私の髪を撫でつけて整える。ソファーに座り直して、居心地のいい背もたれに戻った。勝手に動き出さないように純の両手は私の腹の前で組み合わされる。まるでシートベルト。

 私の飼い主は、万能で、やさしくて、あたたかくて、私のことを守ってくれる、従順なペット。
 なぜ、こんな私にここまでしてくれるのか、やさしいのか、慕ってくれるのか。ほんとうのところはわからないけれど、純との暮らしは穏やかで安らかで、今は居心地の良さすら感じている。

 触れ合えるほど近しくて親しく思うこの情は、友情でも愛情でもないけれど。
 










着手:2021/09/01
第一稿:2021/09/03

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