二次創作:かき氷

  梅雨が明けた途端にとんでもない暑さの日々になる。蒸し暑かったり肌寒かったりと不安定だった梅雨のうちにこの夏分の雨を降らせたとでもいうのか、毎日毎日、カンカン照りの灼熱だ。
「ジャーン!」
 キッチンで上機嫌でなにかの包みを見せびらかす上薗純の姿に、ソファーでくつろぐ福田矢晴はまたか、と呆れをにじませたため息をつく。
「見て見てー! かき氷機だよ!」
 純が包みを開け、箱の中からハンドル式のレトロなかき氷機を取り出した。
「これで毎日かき氷食べれるね!」
「お前なら電動の最新式買えるだろ」
 なんでこんなおもちゃみたいな旧式を、と矢晴は呆れる。
「も〜矢晴ったら。この手回しなところがいいんじゃないか〜」
 純は少しばかり拗ねたふうに唇を尖らせる。
「シロップもあんこも練乳も用意したからね! なんでもお好みだよ〜」

 純は自動製氷が追いつかないくらいにガリガリと氷を削ってはかき氷にして食べた。矢晴は最初の1杯でもう十分だったが、純が試すいろいろな味に興味がわき、一口ずつもらった。総量で考えるとそれだけでも1杯分あっただろうと思われる。
 すっかり体の冷えた矢晴は今はもう温かいお茶を飲んでいる。
 氷が切れてしまってそれ以上は削れない純は、名残惜しそうに片付けをしていた。
「……やっぱり電動にしとけばよかったかも……」
 珍しく弱音を吐くような純の声音に矢晴は視線を上げる。
「……手首が痛い」
 漫画家としてことさら手を酷使するからと普段あんなに気をつけているというのに、手回しのかき氷機をあんなに調子に乗って回すから。
 漫画家が漫画を描いて腱鞘炎になるのなら名誉の負傷とでも言えるかもしれないが、かき氷機を回して腱鞘炎だなんて、目も当てられない。
「馬鹿だな、純は」
 矢晴はさも面白げに笑いながら、リビングの棚に常備されている薬箱から湿布を持ってくる。
 純が差し出した手首に湿布を貼ってやる。
「かき氷は1日1回、私が削ってやるよ」
 さっさと治せ、は言外に、矢晴は湿布を密着させるように純の手首を撫でた。













着手:2024/07/27
第一稿:2024/07/27

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