二次創作:日の出

  早朝の肌寒さに目覚めて、隣に眠るはずの温もりがないことに気づく。サイドチェストに置いている時計を見れば6時を少し過ぎたところ。
 こんな時間にベッドにいないなんてことはこれまでになかったことだけれど、トイレにでも行っているのかと、少しばかり不安に思う気持ちを振り払う。
 数分経っても戻ってこないことに不安が舞い戻る。ベッドから降り、部屋を出る。トイレをノックしても返事はない。トイレのなかにもいない。
 1階にいるのかもしれないと階段に向かった途中、バルコニーに視線を向けたら、そこに見慣れた後ろ姿を見つけた。
「おはよう、矢晴」
 そう声をかければ、矢晴が振り向く。そのままバルコニーに出て、矢晴の隣に立って矢晴がさっきまで見ていたであろう方向を見た。
「おはよ、純」
「寒くない?」
「ん、大丈夫」
「なに見てたの?」
「空の色をさ、眺めてた」
 南東のバルコニーから見える空。群青の夜から夜明けの赤橙までのグラデーション。まだ太陽は昇ってこなくて、赤橙の下に存在だけを示している。
「きれいだね」
「うん」
 曙色、東雲色、なんて単純に言い表せるような色じゃないけど、他になんて表現したら良いのかわからないくらいに複雑で自然で、ただただ、きれいな空の色。
 眺めているうちに朝の勢力が拡大していく。どんどんと空が白んで、遠く一際強い光が顔をのぞかせる。
「初日の出だな」
「うん」
「去年はさ、独りで呑んだくれてて初日も正月もなにもなかったけど……」
 矢晴が日の出の眩しさにか目を細めた。
「今年は、お前とこうして初日の出を見れてよかった」
「私も、矢晴とこうして過ごせるのがなにより嬉しい」
 空はすっかりと早朝の明るさに染められていた。新しい一日、新しい年の夜明け。
「あけましておめでとう、今年もよろしく」
 定番の正月の挨拶。ただの定型句だけど、矢晴の口から“今年も”なんて言われたことで天にも昇りそうな嬉しさが心に満ちる。
 ふたりで暮らしはじめてまだ2ヶ月にも満たないけれど、矢晴は今年1年分は確実に、私のそばにいてくれるつもりなんだと思うとたまらなく嬉しい。
「あけましておめでとう! 今年もよろしく!」














着手:2024/01/01
第一稿:2024/01/01

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