二次創作:月がとっても
家のなかにいるとそんなに季節を感じないのは、私が過ごしやすいようにと純が気を回しているからなのかどうなのか。それでも、やはり夏の暑さは感じていたし、連日の熱帯夜は空調完備といえども忍び寄るように寝苦しさを運んできていた。のも、喉元すぎればなんとやらを地で行く感じとでもいうのだろうか、ふと気づけば、暑すぎた夏は過去になっていた。
「風が気持ちいいね」
暑い昼間を避けての夜の散歩が定着し、純と一緒に夜道を歩く。住宅街だからか眩しいネオンや看板もなく、適度な街灯は夜空の邪魔にはならなかった。
昼の残渣のような温みを涼やかな風が連れ去っていく。昨日よりも今日、今日より明日と、風は涼しさを増していくのだろう。ふたりで歩く夜の散歩もあとどれだけ……。
見上げた夜空にまぁるい月が、澄んだ空気に青く輝く。
不意に頭のなかにメロディーが流れる。自身が生まれる何十年も前の流行歌。なんでそんな曲を知っているのかさえ覚えがないが、今の気分にぴたりとハマる。
「遠回りして帰ろっか」
音が漏れていたのか、心が読めるのか。驚いて、見上げた視線を隣を歩く純の顔に移す。純は月のように優しい顔で微笑んでいた。
着手:2022/09/28
第一稿:2022/10/06
コメント