二次創作:脱毛
上薗純は全身脱毛をしているらしい。
それでも頑固に生えてくるヒゲが悩みのタネらしいが、私が見る純は、大理石のようにすべすべの肌の持ち主という印象でしかなかった。それは生来薄毛でほぼ無毛の私と同じように純の体質によるものだと思っていたが、努力と金の力によるものだったらしい。
風呂で洗われたあの日、純の身体を凝視していたわけではないが、上半身も下半身も男性らしいムダ毛の気配はなかったように思う。パンツの中までは透視できないからその部分がどうなっているのかはわからない。
あのベッドの中で、純が突然パジャマのボタンを外しシャツをまくりあげて、素肌を私に当て触らせてきた、あの時。間近で見てしまった純の胸や腹にはムダ毛は一切見えなかったし、純を触る私の手に感じる純の肌は吸い付くようになめらかであたたかく――。
私はもとより薄毛の体質で脱毛なんて縁がないから、という興味と、永久脱毛した場合の人の肌というものはどんな感じなのかと知的好奇心がわいてきた。
ために、今、こんなことになっている。
最初は本当にただ、ちょっと、通常の成人男性なら発毛しているだろうスネや腕をパジャマの裾をたくし上げて見せてもらっていただけだった。
前に住んでいたアパートには風呂がなかったから近所の銭湯に通っていた。だから、男性の無防備な姿をまじまじと観察していた訳では無いが見慣れてはいる。けっこういろんなパターンの毛の生え方を見たと思う。銭湯という場所柄、土地柄や人柄などもあろうが、一切隠しもせずにいる人も多かった。
そんな記憶と、純の肌とを比べながら、触る。
全身医療脱毛をした、というだけあって、確かに、腕もスネもつるつるすべすべで、触り心地がいい。濃く生える毛だけじゃなく、産毛まで脱毛しているようだ。
本当に全身の産毛まで脱毛しているのかとさらに興味をひかれて、純のパジャマの前をはだけてシャツを捲り上げる。ほどよく鍛えられた引き締まった胸にも腹にも、一切の毛の気配はない。
それなら太腿も、とパジャマのズボンを純の足から引き抜いた。こちらもまた、すべすべの肌。外腿と内腿とに肉質の差は感じられるが、産毛の感触はなかった。
脱毛したのにヒゲは生えてくる、と嘆いていたのだからどこか他にも頑固に生えてくる毛があるのではないか、と純の全身をくまなく触る。どこにも毛の感触がなく、私の手には純の肌のなめらかさとあたたかさしか感じられなかった。
あと、確認していない場所は……、と純のパンツに手をかけた、その時。
「……矢晴ぅ……」
と力なく私を呼ぶ純の声が聞こえた。
声を発した純の顔へと視線を向けると、ついぞ見たことがないくらいに紅潮した頬と、少しばかり乱れた息をする口元と、潤んだ瞳の、純が見えた。そしてそのまま、視線を動かして、純の身体を見る。はだけたパジャマに、限界までめくられたシャツ、脱がされた下半身には下着しか残されていない。シーツの海に横たわる純の肌は羞恥に震えるように小刻みに動く。
今まで、私が純の身体に何をしていたのか、を把握した。
「ごめん! 調子に乗った……、ごめん……」
自身のしでかしてしまった行為を謝りながらも、身体の奥底から一種異様な興奮が湧き上がるのを感じる。
「……いいよ、大丈夫……嫌だったわけじゃないし……」
着衣を剥がされ、艶めかしい姿態を晒す純は、まだ整わぬ息で言う。
嫌だったわけではない、というその言葉を信じるのなら、潤んだ瞳は嫌悪や拒絶の涙を湛えているわけではないということになる。私に身体中を触られて乱れた息は……。
「……、もっと、見る?」
純の言葉が落雷のように私の身体の中心を走る。純の手が、さっき私が脱がそうとしていた下着の縁にかかる。脱がされるよりも自ら脱ぐ方が羞恥が少ないという判断なのかもしれないが。純の言葉が行動が、劣情を、煽る。
「……見たい」
内側から唾を飲み込む音が耳に大きく響く。純にも聞こえるほど大きな音だったのではないかと思ったが、もはやどうでもよかった。
私の要請に従って、純がそろそろと下着を下げていく。下着に隠されていた部分が顕にされていく。
かつて見かけた剛毛といっても差し支えのない見知らぬ人の下腹部は臍の周囲から鼠径部から下着でも覆い隠せないだろうくらいで、むしろ生えている毛がそのまま下着に見えるほどだったが、純のそこはまったく違う。
脱毛の効果なのか、形良く窪んだ臍の周囲も無毛で、さっきまで下着に隠されていた今顕になった鼠径部も発毛の気配はなく、さらにその下も……? と期待と興奮がつきあげてくる。
医療脱毛によって毛が生えなくなり、毛穴がその大きさを保持する必要がないからなのか、純の肌は毛穴も見えないほどのなめらかさを誇る。
もうすでに陰毛が見えていてもおかしくないくらいに純の下着は下げられている。もう少し、あと少し……と、食い入るように見つめてしまう。無毛地帯を確認したい、見てみたい、という興味、欲求は、別のものに置き換えられている。
「ねえ、どこまで脱毛してあるの?」
私の本当の興味がどこにあるのか、自分自身すらごまかしたくて聞いてみる。
「ん……、全部」
純は少し恥ずかしそうな声で答えた。
全部って? 体毛が薄い自覚のある私ですら、陰部には正常と思われる範囲程度には生えている。純の全身は脱毛されていて、全部が脱毛されていて……。だから、この先も無毛で、つるつるで、ツルツルで、つるんツルンで……。
想像が限界になって、目眩のような感覚に陥る。その渦に欲求と興奮とが巻き込まれ巻き上げられて、頭のなかに竜巻が起こる。
男の性器を見て興奮する性質なわけじゃない。ただただ、脱毛された状態を見たいだけ。純が無毛の男性器を見せてくれるだけ。未知のものへの興奮だ。ただの探究心にすぎない。
そこにあることを証明する膨らみにひっかかって焦らすように、なかなか全貌をあらわしてくれない純の下着に手をかけたくなる衝動を必死に抑え込みながら、今か今かと注視する。
そして、ついに。
ふるりと柔らかく、重力にしたがって垂れ下がる男性器。その周囲は陰毛に隠されてはおらず、ペニスと肌との境目はない。なめらかな肌の、その美しさは彫刻をも思わせる。
下着は太腿の中ほどまで下ろされて、鼠径部から男性器、内腿までが顕にされている。
「触っていい?」
と聞いておきながら、純の返事を待たずに触れた。
足の付け根のラインを下に向かってなぞる。本来ならば陰毛が生えているだろうはずの恥丘をなでる。ペニスの付け根をぐるりとなぞり、その全てが無毛であることを確認した。
ペニスの下に位置する陰嚢を手のひらに収め、揉みしだいても、毛の感触はない。
足を開かせるのに邪魔な下着を膝下まで追いやれば、勝手に片足が抜かれた。足の間に潜り込み、陰嚢から肛門へとつながる蟻の門渡りを丹念になぞるも、ここにも一本の毛も見つからなかった。
弾力のある尻肉を割り、その奥を覗く。きゅっと絞り閉じられ、きれいな放射状に広がる肛門の皺。その周囲も無毛で視界を遮るものはない。菊門とはよくいったもので、その花弁の形状、淡く紫がかったピンク色など、まさに菊の花を思わせる。
無理な体勢をさせてしまっていたか、純の身体が時折大きく震えるのに気付いた。ついつい夢中になってしまった、と身体を起こす。と、純の様子がおかしい。
震える身体は寒いせいではないらしい。ほんのり火照ったように全身が紅潮している。肩で息をするような苦しそうな呼吸。私の目から局部を隠すように足が動くが、純が隠したいのであろうそれを私はすでに目撃してしまった。
勃起。
性感を高めるようなテクニックなんてものは持ち合わせてはいないが、執拗に性感帯とされている場所を触ってきたのは、それが目的でもあった。つい、純の身体を見て触ることに夢中になってしまって、純の反応を見るのを忘れてしまっていたのが残念ではあるが、純の性器はしっかりと反応を示していることに嬉しくなった。
とはいえ、直接性器を触っていないのに勃起してしまうほど敏感な身体では、脱毛の施術中にも勃起してしまっていたんじゃないか? と想像すると、少し喜びが色褪せる。
「見せてよ」
私が言うと、純は身体を仰向けにした。けれど、やっぱり恥ずかしいのか両手で顔を隠してしまう。純の恥じらう姿なんて珍しいからもっとよく見たいのに。そこまで望むのは贅沢なのかもしれない。
さっきまで重力にひかれて垂れ下がっていた柔らかいペニスは、今は硬く腹につきそうなほどに反り上がっている。勃起状態によって周辺の皮膚もさっきよりも張っている。陰嚢も持ち上げられている感じがする。無毛の大地にそそり勃つ純のペニスは私のものとはやはり形が違う、と思う。美しい、色、形。そして、大きさ。どれをとっても申し分ない、完璧さ。
付け根の皮膚をなぞると、それに反応してぴくぴくと動く。裏筋を撫であげると先端に雫が浮かぶ。その雫を指で掬いその周囲に塗り込めるようにすると、さらに雫が浮かんできた。
二次元でしか抜いたことがないオタクだから、と純が言ったことを信じるならば、このペニスは今まで粘膜に使ったことがないということになる。宝の持ち腐れのようにも思うが、それはそれで、初物、ということになる。
純のペニスの先端からあふれる雫を亀頭に塗り拡げながら、竿の部分を握ってみる。純は大きく反応し、喘ぎ声をもらした。
純は他人にこんなところをこんなふうに触られるのも初めてなのだろうと思うと、ほのかな征服欲に愉悦を感じる。竿を擦ると、さらに反応が大きくなって、もっと楽しくなった。
口の中に唾液があふれ、ごくりと飲み下す。
初物か……、と思うと余計に唾液が分泌されるような気がした。
今まで、手淫しかしたことのないだろう純が、ペニスを粘膜に包まれたらどんな反応をするんだろうか。そんな興味が湧いてくる。さすがに、私の身体には女のように男を受け入れるための濡れる粘膜の穴はないが、口腔は男も女も共通だ。
それに純の初めてを奪える機会なんて、今しかない、と思う。
「……え? ひゃっ……! あァッ! あーーー……ッ!」
純の身体が大きく跳ねて、私の喉奥に勢いよく粘る液体を射出する。口に含んでまだ何秒も経っていない、三擦り半にも届かないだろう短時間。純のペニスの硬い感触を確認するほどの時間もなく、口の中で柔らかさを取り戻していく。
喉奥に流し込まれた精液は味を感じる暇もなく、唾液とともに飲み込んでしまった。柔らかくなるにつれ残渣を垂れる純のペニスを絞り出すように吸い上げて、舌に乗るわずかな精液を味わった。やっぱりそんなに美味しいものではない。
純のペニスから口を離して身体を起こす。純のペニスは唾液に濡れて、無毛の皮膚の上に萎んでいた。
純の顔を見ると、さっきまで顔を隠していた両手は祈るように胸の前で組み合わさって、もはや顔を隠すつもりはないらしい。瞳はとろんと呆けていて、射精の快感に酔っているのかもしれない。だらしなく開いたままの口元は、乱れた息に喘ぐような声が混じる。
そんな純の様子を眺めていたら、純を絶頂に導き征服したような満足感が心にあふれて気分が良くなった。こんな気分の高揚のさせ方は、危険かもしれない、と思うものの今夜だけのことだから、と納得させた。
純の息が整い始め、だんだんと寝息に近くなる。よっぽど気持ちよかったのか口角が上がりだらしなさはそのままに笑顔になっている。快感に蕩けていたような瞳は瞼に隠されつつあり、そのまま眠ってしまいそうだ。
純の腕は胸の前にあって、シャツもパジャマも戻せない。下半身は右足首にかろうじて下着がひっかかっているだけで裸なのだが、脱力している純に下着とパジャマのズボンを履かせられるほど、私に腕力はない。
起こして着衣を整えさせるというのも気が引けて、とはいえ、このままでは風邪を引くかもしれないが……と逡巡しながら、結局、布団をかけるだけにした。
口の中の純の後味が消える頃には、私にも睡魔が押し寄せる。
初物七十五日、などと言うが、今日の“初物”にそんな効果はあるんだろうか。満たされた気持ちはわずかばかりでも寿命を伸ばしそうな気はする。死にたい気持ちを抱えながら寿命を伸ばしたいなんてひどく矛盾しているような気もするが、純の隣にいるために寿命を伸ばすのも悪くないんじゃないか……と、思った。
着手:2023/10/24
第一稿:2023/10/26
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