有能

 矢晴は今のところ自己肯定感やらなんやら完膚なきまで破壊されてて、自分のことを価値がないだの、馬鹿だの、私程度の人間がだのと、自分で自分を貶めているけれども、元来、純が憧れて理想とするほどの漫画の才能がある人。

A誌にいた間に出せた単行本は2冊だけだけども新人漫画家の単行本としてはかなり売ってたほうで、2冊目は国内外で賞を獲るほど認められていた才能。

小さい頃から絵を描くのが好きで、中学3年〜高校1年あたりから漫画家を目指して投稿しはじめて、大学4年の春には商業デビュー。デビュー作にはカラーページもあるんだから、かなり期待の漫画家でもあったんじゃないかと思える。

【売れうつ】という作品自体が、才能のある漫画家が漫画を描けなくなってうつ病で死にかけてたところをそのファンを名乗る売れっ子漫画家に拾われて療養して幸せになるまでの話なのだから、矢晴に漫画の才能があるのは前提として存在してるわけだけど。

なんの取り柄もない無価値で無能な主人公のもとに訪れる王子様、って図式の漫画ではない。けども、そういうのを期待してた層は、【第2話】で矢晴が賞獲った話をしたあたりで離脱したっぽい。

矢晴が漫画家デビューして純の心を鷲掴みにしてなけりゃ、純が矢晴を助けることもなかったんだから、純も全方位に善人であるということもなく。憧れの漫画家への執着とファンとしての崇拝とかから生まれた古印葵限定の善意でとても好感が持てる。

矢晴は今のところ自分に才能があるだとか価値があるだとかは思ってないけど、純は自分の憧れの作家の才能を信じて疑わない。古印葵は天才だという確信がある。それが純だけの思い込みだったとしても、純が矢晴を有能だと確信していることは間違いない。

でも、折々で矢晴の才能はチラ見せされているから、読者としても矢晴の才能を疑うこともない。

もともと才能のある矢晴が、自己肯定感失ってて自分の才能を信じてないしないものとして扱うし自分自身を貶めるから、純が矢晴に才能があること、有能なことを教えてくれるって話になってて、これからがすごく楽しみに思っているところ。

有能だから価値がある、無能だから価値がないとかいう話ではなくて、元来矢晴には漫画家としての才能があるのを矢晴自身が信じてないから、古印葵を憧れの漫画家として崇拝するファンの純がこれでもかと教えてくれるってだけのことで、無能な人間を淘汰するみたいな話はこれっぽっちもしてないが……? と思い出し怒りをしている余談。


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