純と矢晴

 同居1ヶ月目の夜を経て、それなりに距離が縮まったような、一定距離を保てるようになったような……? と、なにかしらの一線を超えたらしいふたりだけども。

結局きみたちはお互いのなにを知ることができたんだ? という疑問がある。

純は、「2次元でしか抜いたことがない」=人間と性交渉をしたことがない=童貞、ということを矢晴に知られたことになるけど、「人間に欲情したことがない」という性質については、明かしていないはず。

矢晴は純を性的に誘惑したり、純は矢晴の様子から「矢晴は純のことが好きになってるから甘えたいのかも」と思ったりしてるけど、矢晴自身が純に対して性的な接触をも望む恋愛感情を抱いている、と告白したわけではなさそう。

今のところ、読めた範囲では「純の家に来てからどんどんおかしくなる」「純に呪われてから違う人間になる」「純のせいで私は気持ち悪くなった」とは言っていて、純と初めて会って、純の家に住むようになって、どんどん純に惹かれていく。純にかけられた恋の呪いのせいで、矢晴は純への恋心を抱く気持ち悪い存在になってしまった。というようなことを伝えていることになるのかしらねえ……? と考えられるけども、曖昧。序盤に言ったこともほとんど純には聞き取れてないことだから、純がちゃんと把握できたかどうかも謎い。

【第17話】の矢晴の『お前の手で私は楽になってやる』『同じくらいの恥をお前の両手で私に見せてくれ』と【第16話】の純の『あなた自身であなたの美しい世界で』『証明してくれるなら』『もう何も怖くない』と、お互いに相手に“証明”を委ねているあたり、すっかり両思いな気分にもなるのだが。

『私』『それがいいな』と頬を染めてうっとりとして性欲やら欲情やらに憧れているような純は、【第17話】には出てこなくて、『彼の肉には一ミリも興味も性欲もない』と断言してしまうような古印葵の精神世界を覗いてみたいだけの好奇心だけの純の一面が見えていて、結局純は、「欲情できない性質だけど矢晴に導かれて欲情できるようになりたい」と考えているのか、「矢晴の肉体には興味ないけど、性処理してあげたら自分をたった一人の特別にしてくれるかな」程度のことしか考えていないのか、となかなかにしてわやくちゃなんだけども。

矢晴は純に『もうそれ性欲だろ』と言って純から『それがいいな』と言われたのはわかってるけど、純が「矢晴の肉に興味も性欲もない」と考えていることは知らない。

純がちゃんと全部矢晴に伝えていないのなら、矢晴は純が「人間に欲情したことがない性質をもっていて、矢晴の肉体に興味も性欲もない」ということを知らないままということにはなる。

『私達の醜さも認めろ』からの明かされていない数時間の間になにがあったのか、がとても気になるのだけど、この夜を経て『私達の関係ってなんだと思う?』と問われるくらいに“ふたりの関係”が変わったのか、どうなのか。

そもそも、純は矢晴から聞こうとする前に、自分でなんだと思っているのか言えよ、こんちくしょう、という気分もなる。お前たち、結局、相手の言うこと次第で身の振り方を考えようとしてるままじゃないのか。なぜ、純は昨日の夜に反省したばかりなのに言葉を欲しがるのか、矢晴を傷つけたと反省したのではなかったのか。矢晴は答えられなくて困ってるじゃないか。

矢晴は矢晴で、「そんなの答えられるわけがない」とか「まだ名前はつけられない」とかはっきり答えてもいいんじゃないのか。とてもいい着地をしてはいるけども、結局お互いをさらけ出してはいないんじゃないのか、という気にもなってしまう。

ふたりの関係も気持ちも、全部曖昧なままなんよ。とは思うけども、矢晴が純との出会いを寿げるようになったことが、とても良い。ここから始まる。


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