替えが利かない

 純にとって、古印葵の漫画は古印葵にしか表現できないもので、【第9話】『心の…誰も触ってくれないところを』『触ってくれるから』『他じゃ替えが利かないんです』というくらいに代替品は存在しない。

【第13話・後編】で『全部お前にやる』と矢晴に言われても『私じゃ古印葵を紡げないのは私が一番知ってる』くらいに、純にとっての古印葵は特別だし、望海可純には古印葵の漫画を創ることはできない。

「本当に求めているものの代替品が〈ない〉」ことを理解しているから【第12話】で『けどさ本当に探してるものの代替品がアルコールなんでしょ?』という言葉が出てくるのかな? と思うのだけど、『それって普通だよみんなそうだもの』『目に見える現れ方がみんな違うだけでさあ』という一言二言が、ほんとに余計で、余計すぎて……これ、ほんとに純が言ってるの……? という気分にすらなる。

「みんな〈何か〉を求めて、探している」けど「見つからないから他で代用しようとしている」だから、「矢晴も〈何か〉の代わりにアルコールを求めて、探している」……と考えてみるけども、いまいちしっくりこない。

矢晴が本心で求めているのは「漫画を描く自分」とか「自分の描きたい漫画」なんだろうなと思うのだけども。その代替品がアルコールであるのかどうか。現実から逃げるための手段がアルコールだから、アルコールが必要で探してて、アルコール以外に現実を忘れさせてくれるものはないからアルコールなんだよ、みたいな気分にはなる。

そして純が求めてるのも「古印葵の漫画」なんだけども、純は【第9話】『あなたの世界が好き』『けど描けとは言いません』『幸せになってほしい』、【第13話・後編】『瓶の中身が漫画にならなくてもいい別のものでもいい』と言っているのを本心とするなら、「古印葵である福田矢晴が生きて幸せになることを求めてる」ことにはなるのかな。

純にとって「古印葵の漫画がくれる幸せ」は替えが利かないものだから、古印葵である福田矢晴も「かけがえのないもの」であることは確かで。

純にとって矢晴はかけがえのない大事な人だから、古印葵をトレースできたらポイみたいなことはないだろうなと思う。そもそも、純には古印葵を紡げないのだし。

思うんだけど……、それが永続するかどうかは不安がある。

とはいえ、『あなたの亡骸は私が拾いたいんです』『死ぬまで孤独じゃなくなる約束しませんか?』という純のプロポーズと、矢晴を死なせない・忘れない決意を考えると、矢晴が寿命を全うするまで純はそばにいてくれそうだし、矢晴が死んだ後も純の寿命が尽きるまでずっと想い続けてくれそうな感じはする。


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