背中

 純に抱きしめられて背中に生まれた蟲は最近ご無沙汰だけれども、どこに行ったのかなあ? と思いつつ。

矢晴の背中は底の見えない崖を見続けていた。

【第22話】で『父親に殴られた日から』『自分の背後が』『すごく冷たくなって暗くなって』の状態で数年漫画家として活動していて、『父親が人を刺したって聞いた日から』『自分の背後が』『底の見えない崖になって』うまくいかない連載を終わらせて、そして背後から希死念慮が追いかけてくるようになった。

【第13話】で純が『こっちを……』『私の顔を見て確かめてください』『あなたが背中で見ている不安は存在しないことを』と言った時、純は自分の本当の姿を見て欲しい、という気持ちで言ったのだろうけど、矢晴にはまた違って聞こえたんじゃないのかな? と思う。

そして【第22話】で純が『君の後ろの崖が浅くなるならいくらでも言ってやるよ』『君の命は美しいよ』と底知れない深い崖を美しい花で埋め尽くしてくれる。

純に抱きしめられた背中はあったかかったんだろうなあ、と思うし、純の家でゼロクッションに身を委ねて浴びた西日もあったかかったんだろうなあ、と思うし、純が『あなたの背中に目はついてない』と言うし、思考の共有で『背中があったかい』し『手があったかい』し、あったかい電気毛布で寝させてくれて背中から全身あっためてくれるし、純は背後の崖を埋め尽くしてくれるし、と矢晴の暗く冷たい背後を、純がどんどんあたためてくれるんだよなあ。

願望としては、物理的に毎日純が矢晴を前から後ろから抱きしめて、ずっとあっためてあげてほしい〜。


矢晴がデビューしてちょっと、読切が載るか載らないかの不安定なところで、『今すぐ辞めろ』『そんなんで生きてけると思ってんのか』『辞めろ! 今すぐ辞めろ!!』とそれまで進路に反対したことのない父親に殴られたことがトラウマになってて、というのを考えると「温厚だった父親に殴られた」こともトラウマだけど、「漫画家として成功しないとまた殴られる」って強迫観念がありそうな気がする。それを払拭するには「漫画家として成功して売れて父親に認めてもらう」必要があるのかしら。


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