四階みたいな

 矢晴は四階からあれやこれやと言われた時に四階のことを『噂話でしか聞いたことのない――目の前に存在するとは想像できない――』『初めて会うタイプの人間だったからか――私の脳が少しバグったのだろうか』と表現しているのだけれど、居酒屋で純に語ったことやら、B誌での過去のことやら、と見ていくと、矢晴の周囲、そこらじゅうに“四階みたいな”人間はいたんじゃないか? と思えてくる。

ペンネームの話をした時に、『あと男が恋愛漫画描いてると「なんで男なのに少年漫画じゃないの?」ってしつこく聞かれてうざいから女の名前で女のフリするってのもあります。あいつら歴史も文豪も知らねーんです』と言っているから、しつこく聞かれてうざい思いをしたことがわかるし、歴史や文豪を知らず自分の考えだけを押し付けてくるような人間が複数いたらしいこともわかる。

矢晴が「古印葵」というペンネームを使い始めたのがいつからなのかはちょっと疑問になってきたけれど。デビュー前の投稿時(15歳〜)からなのか、一度本名で入賞時に名前が雑誌に載ったのを見咎めた周囲にあれやこれや言われてうざかったから、女の名前にした、のか。気になる。

A誌の担当編集はそんなこと言いそうなタイプでもなし、二人三脚でいい感じに見えるし、受賞を一緒に喜んでくれるし、良い人だったんだろうなと思うんだけど。

B誌の担当編集はそれなりに矢晴の作風を理解してくれて評価してくれてるっぽいけど、上の言いなり。上の人は上の人で流行に乗った売れ線しかいらないとか、単行本の印刷代かかるから原稿料下げてとか、なんかもうヒドイ人間で、それこそ四階みたいな人種では? と思える。

四階みたいにあからさまに作品と作者を罵倒してくるような人間は、初めてだったのかな? とも思えるけれど、多少マイルドな四階みたいな人種は、矢晴のまわりにも普通にそこかしこにいた感じはする。

それだけ四階が強烈だったのかな? とは思えるけれど。こんな人間マジでいるの? と想像の範囲外だったあたり、矢晴は人間を信用し過ぎではないか、みたいにも思ったりする。


ただ、矢晴自身はそういった人種と好き好んで付き合うようなことはしないだろうから、友人知人は穏やかな人たちばかりだったのだろうなとは思う。ただ、小さい頃からとか中高で仲良くなったような地元の友だちとは、父親の事件をきっかけに自分からも連絡を取らない感じで疎遠になってしまっているような気はするんだけど。

漫画を読めなくなっている間に、漫画に関する話もしたくなくて漫画家仲間がいたとしても疎遠になってそうだしなあ。そもそも少年誌で異質な恋愛漫画を描いている時点で、同じ雑誌に話の合いそうな漫画家いなさそう……? それこそ、なにかで知り合った時に「なんで男なのに恋愛漫画?」とか言われそう。


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