【感想】第7話 誘惑・ユートピア
今回は、【第4話 荼毘・アルコール】【第6話 上薗純、曰く その(2)】のラスト、矢晴の部屋を徹夜で掃除した純が、矢晴に同居を持ちかけて『あなたの亡骸は私が拾いたいんです』『死ぬまで孤独じゃなくなる約束しませんか?』からの続き。
怯えた矢晴は部屋の隅まで後退り、体に首、顔がめり込むほどに怯えている。そんな矢晴を見て、純は内省。純の目のアップで目の動きが描写されて、嘘をつこうとしているわけじゃなく自身と対話しているのがわかる。
内省後、にっこりと笑う。その笑顔が作り物くさくて信用できないんだが。
『ルームシェアで暮らすの夢なんですよ』と一通り、同居についての話をして、『また来ますね』と帰っていく純。ここで追い詰めたらダメだしねー、純も徹夜で頭働いてないだろうから、ちゃんとしてて、良い。純が帰る直前のコマの矢晴がむっちゃかわいい。好き。
純が帰ってしばらくしてから、矢晴は布団に這っていく。布団のなかで純に抱きしめられたことを思い出して、『呪いか?』と考えてるとこ。純の気持ちが伝わってる感じがする。正しく伝わってるかどうかは別にして。
『死ぬまで独りで死んでも独りで溶けて腐る想像を毎晩する』から、純が持ちかけた約束は『この病気にとって蠱惑的すぎる』と、矢晴の背骨になにかが芽生える。矢晴はそれを「あいつの呪い」って言ってるし、芽生えた場所は「純に抱きしめられて手の体温が食い込んだ場所」で。純が作用しなきゃ生まれなかった蟲は、矢晴に取り憑いた純の気持ちなのか、矢晴の心が生み出したものなのか。
矢晴が布団に潜ったまま、何もしないで世の中は回り、夜が明ける。矢晴はバイトを無断欠勤していてクビになる。酒がほしいけど動けない、死にたいと繰り返し考えるところとか、蜘蛛の糸にまかれて視界を遮断する想像とか、身につまされる。
昼になって、矢晴のアパートに再度来訪する純。インターホンを鳴らすも壊れてる、声をかけても返事がない、差し入れをドアノブにかけて帰ろうとしたらドアが開く。『…開いた』『不用心すぎませんか?』と顔に焦り汗と縦線が入った純はけっこうレアな気がする。
矢晴を同居に誘い続ける純の言葉が軽くて、「お金は全部出すから」って言われても、初めて会ってから3日目の「望海可純という漫画家」以外のことを知らないのに、信用できるわけもなく。逆に怖い思いしかしないんだけども。純は【第6話】で『私はあなたの前では「たかが」を渡さず口だけ出す偽物なんかにならない』って、矢晴を助ける決意をしてるんだけど、そんなことを矢晴は知るはずもなく。
「難しいことはあとで考えればいい」を何度か使うのだけど、それがまた胡散臭くて、詐欺師っぽくて。矢晴は抵抗するためにいろいろ質問するんだけど、逆につけこむスキを与えているような。ついでにトラウマな記憶まで想起しちゃってドツボ。
B誌にすがりついた2年半、A誌に戻って新担当の菊池に言われたこと。これはキツイ……と沈んだ記憶の暗闇から見えた現実の純の姿が神々しく見えちゃうんだけど、その後に「純の釣り針に手をのばす」カットがあるから、やっぱり救いに見えてたのかな。
もうすでに思考力を失ってる矢晴に対して『正式な紙の契約書を作れば』『一緒に暮らしてくれるってことですよね?』と嬉しそうにはしゃぐ純がかわいいけど、怖い。無邪気すぎて。純のことだから矢晴に悪いことはしないだろうと思うのだけど、言葉が軽薄で詐欺師っぽくてってのも合わせると、矢晴に飽きたらポイってする…? みたいな不安がかきたてられるのはどうしてだろう。
もう何も考えられなくなった矢晴の背中に釣り針が飛び込んで、それを求めるように矢晴の背骨に芽生えた「呪い」が蟲の姿をあらわす。この時はまだちっちゃいなあ。
- 純の言葉に怯えて部屋の隅に逃げてる矢晴
- 内省しわかりやすい説明をする純、深追いはせずに帰る純
- 布団に戻り、純のことを考える矢晴
- なにもせず眠れもせず1日が終わる
- 翌日、純が再度訪れる
- 同居の話をすすめる純、抵抗するように質問をする矢晴
- B誌でのことを思い出して悪夢に囚われたようになる矢晴
- 口約束でなく契約書を作ろうとはしゃぐ純
- 純の釣り針にかかろうと飛び出す蟲
表紙のサメのぬいぐるみの中から矢晴をつかまえる純が、矢晴が純に食い殺されるんじゃないかという不安を煽る気がする。絵面はむっちゃかわいいのに。
なんかもー最初から最後まで、なんだか純が胡散臭い感じしかしないのはなぜだろう。矢晴がずっと純を胡散臭いと思ってるからだろうか。
矢晴がB誌で受けてきた仕打ちが辛いのだけど、その後の菊池さんの一言もほんと、きっついなあ、と思って。その記憶の後に見える純の顔が、むっちゃきれいで素敵に見える。
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