望海可純の絵
望海可純は自分の漫画があまり好きではなくて、絵も理想から程遠いのが悩みのタネらしい。累計1400万部を売り上げる人気作家だというのに、本人はそれに納得がいっていないところが、相対的に望海可純が理想としてる漫画家・古印葵の天才性を浮き彫りにする。
【第11話】『私どうしてもストロークが下手で』『線を重ねがちでこういうガサッとした絵柄になっちゃいまして』『いる線いらない線の取捨選択も苦手で絵が野暮ったいんですよね』『正解の線だけ残せてないっていうか』と、自身の絵に対しての悩みを吐露する。
【第3話】『絵が映画みたいでページ全体のデザインがセンスがあって線はシンプル だけど確実に正解を選んでてカットの選び方とストーリーへの組み込み方と描き方… 一番すごいと思ってます理想です』と、古印葵の絵に対して語っているように、望海可純の絵と古印葵の絵は、かなり違うようだ。
望海可純はこれからの古印葵との暮らしによって、画力は向上するような気がする。理想とする線に近づいていくとも思えるのだが、現在の絵についているファンからしたら、「以前のほうが良かった」となる可能性もあり。キャラクターのコンセプトなどは変わらず絵柄だけが洗練されていくのならまだ良いが。
【第10話】で、古印葵が危惧したように、作家の作風が変わったために、その作家のファンであった人間が好んでいたものがなくなることは、けっこう多い。「これはこれでアリ」と変わらずついてくるファンもいれば、「コレジャナイ」と離れていくファンも出る。望海可純はそのどちらでもなく「コレジャナイから元の魅力を布教しよう」という一種、過激派のファンだ。
一番良いのは、古印葵との暮らしによって、「望海可純の漫画と絵」を望海可純自身が納得して受容することかなと思う。古印葵に褒められたら一発な気がするけども。もともとデビュー作の時点で古印葵は望海可純の漫画がうまいと言っているし、連載開始で「さらにめちゃくちゃ漫画がうまくなってる」とも言っているのだから普通に褒めてくれそうな気はするけども。読んでくれたら。読んでくれるのかなあ?
資料用に付箋つけた単行本出してきて置いてたりはするから、いつの間にやら読み始めてた、みたいなことは起きそうな気がする。楽しみ。
余談。前回もそうだが、今回も、使用するペンが変わったのか、ペンタッチが変わったのか、これもう絶対下描きじゃないよーというくらいに、美しいペンタッチになっている気がする。絵柄が変わってきた、とも言えるのだけど。この息抜きの作品によって、本業の絵柄まで変わってしまったりしないかと危惧してしまうのだが、本業のペンタッチが変わったから息抜きのペンタッチも変わってきたのかも…? とも思える。
この作品自体が古印葵の作風を下敷きにしてるはずで少女漫画の技法が入っている(乙女な純なんかてきめんに)から、ペンタッチが繊細になるんだろうなと思うのだけど、悪影響ではなければいいなと思う。
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