【感想】第6話 上薗純、曰く その(2)
純パート、その2。その1に続き、表紙の憂いを帯びた純の表情もすてき。こういう顔、誰にも見せてないよね、純。
前回の続きで編集部から。何時に来てたのかはわかんないけど、夜8時くらいまで打ち合わせしてるって、純が粘ったのかなんなのか、長すぎじゃないか? で、編集と食事に出かける。
車の後部座席で『納得いかない』『この世に納得いかない』って考えてるのが、ちょっと怖いところ。(第11話でも思うことだけども、純の思考対象はでかいな)
編集との食事も、古印葵の情報収集目的だったし。情報持ってないから諦めてるけど。この担当、わりと口が軽いってか、なんでもべらべらしゃべってくれるから、純にとっては都合がよさそう。四階についての予備知識を入手。ここで四階のことを知ってるから、「望海可純が四階を古印葵にけしかけた説」がでるのかな。
私は、ここで「四階の扱いに困ってる、編集部では叱るタイミングが難しい」と聞いてるから、「古印葵に罵詈雑言言った四階を、仇討ちついでにこらしめて、古印葵に会う機会をつくってくれた担当に恩返し」と読んでるけども。
そして時間が進んで、古印葵とカフェ。サインをねだる純。『この名前ももう捨てたんですけどね』『私は』『ずっと覚えてました これからもずっと覚えてます』というのが、矢晴にとっていい言葉になってるのか、ただのプレッシャーなのか、呪いなのか。ただまあ、作家としては「そんなにファンだって言うなら、消える前に出てきてくれよ」って感じな気もする。
カフェを出てから居酒屋へ移動するまでの道中。ミント色の錆びた鉄柵。古印葵が足を止めて、『あの色いいなって』と、感性が死んでないことが明らかになる。『写真撮らないんですか?』と言う純、授賞式の古印葵のスピーチをはさんで、『……今はもう必要ないので』とうつむく矢晴。このシーン、好き。
夜になって、居酒屋。(桜紅屋:第11話の純のスケッチで判明)
矢晴が語る映画の話をニコニコと聞く純。『でも絶対助けてくれる主人公が…』『やっと手に入れた大金を盗まれたのに「たかが金」って言ってくれるなら…』『希望じゃぁないですか』と酒に酔って血色の良くなった矢晴。この『たかが金』の話を矢晴は覚えてないんだけど、純の心にはしっかり刻まれた。純は矢晴にとって「絶対助けてくれる主人公」になりたいし、そのためなら自分の持ってる「たかが金」はどれだけでも差し出すし、「希望になりたい」。
だから、純の行動は、かなり純粋に古印葵である矢晴を助けて穏やかになんの憂いもなく幸せになれるようにしたいってだけなのに、言葉選びがまずいのと、矢晴からしてみたら「他人を助けたいなんて、そんな人間いるわけがない」みたいなもんだろうから、あまり信用されてないし、恐怖しか与えない。そういうすれ違いが、この作品の醍醐味でもあるかな。
矢晴のアパート。矢晴の部屋。ゴミの山に埋もれて眠る矢晴。古印葵の現実に愕然とする純。『あなたが写真を撮らなくなったのは』『いつから?』『あなたが筆先で見せてくれた忘れたくないものは』『ここにあるのか?』ってのが、ほんと切ない。大好きな古印葵の惨状見て、心痛めて、掃除する純が。
掃除しながら純が思い返すのは高校時代のクラスメートのことだけども。ここの挿話については以前に触れたので割愛。6話の純の過去話
そして場面は、【第4話】の終盤を純視点からに移行する。
泣いている矢晴を見下ろし、抱きしめる。『これは慈愛』『あなたのことを忘れないでいようとする気持ち』と考えていることはずいぶんときれいなのだけど、『気持ちを伝えれば伝わるはずだ』という考え方がどうにも傲慢。ここはフォントも歪んでて、純の歪さを強調してると思う。
『愛という言葉を考えるときに思い出すもの』『父の友人が父によく言ってた言葉』から、がんばって純が絞り出したのが『あなたの亡骸は私が拾いたいんです』『死ぬまで孤独じゃなくなる約束しませんか?』という、関係性から考えても狂気にまみれた異常な言葉。怯えた矢晴は部屋の隅へと後ずさり逃げ場をなくす。
前のめりになってた純が、すん……と効果音がつきそうなくらい真顔になって正座に戻るところが、矢晴がどれだけ怯えてるのかがわかる。
いやさ、父の友人がって、その二人がどれだけ長い期間友情育んでると思ってるのよ? ってなる。いくら矢晴が今にも死にそうなレベルの劣悪な環境にいるからって、出会ったばっかりの全然知らない人にいきなりそんなこと言われたら怖いでしょ! 純ったら頭いいけど頭悪いなと思った瞬間である。
- 担当と食事。古印葵のことと四階についての話
- 喫茶店でサインをねだる純
- 散歩中、古印葵が目に止めたミント色の錆びた鉄柵
- 居酒屋。映画の話
- 古印葵の部屋に愕然とする純。掃除をする純
- 純の高校時代の出来事
- 矢晴を抱きしめ、「約束」をもちかける純、怯える矢晴
居酒屋で酔っ払って饒舌に語る矢晴はかわいい。第11話で純がクロッキー帳に描いてしまうほどかわいいのはわかる。だしまき玉子が好きらしい。
純が古印葵大好きなのがよくわかる回でもあるが、純の思考が狂気にまみれた異常性をしめす回でもある。狂っててかわいい。純の名が示すとおり、純粋な子なんだけどなあ。
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