【感想】第5話 上薗純、曰く その(1)
この話は、待望の上薗純パート。
なぜ、望海可純はこんなにも古印葵に入れ込むのか、が明かされる。
旅行中、寝台列車のなかで初めて古印葵の短編『春眠の底』を読み、心を掴まれる。そのまま10周してしまうあたり、ずぶずぶにハマってる。旅行中の寝台列車という非日常な空間だったことも影響してそうなんだけど。
日常なら、ただ毎週買ってる雑誌にたまたま載ってた短編をその場で読んですぐに忘れる、なんてことはザラにある。でも、『芯の部分を分析できない 言葉にできない』『こんなに魅力的なのに正体がわからない』『今まで触れられたことのない場所を触られたような…』までいっちゃってるから、その場では忘れたとしても、心のなかにずっと潜み続けそうな気はする。いつかは絶対どっぷりいくやつ。
純が実物の古印葵を初めて見れたのが、E・B大賞の授賞式。師匠の牧野先生に連れてってもらって、という話。頬を染めてスピーチする元気な頃の古印葵がかわいい。これはかわいい、純が惚れる。いや、いまもかわいいけど。
牧野先生の話しぶりだと、アシスタントの純が授賞式の案内見た時にでも「古印先生がいる!」って大騒ぎしたんだろうなと、連れてってほしくてがんばったんだろうな、って感じがする。もともと読んでいたのか純にすすめられて読んだのかはわからないけども、牧野先生もちゃんと古印葵の作品読んでくれてるのも嬉しい。『見学したいって言ってたけど実際のところ』『サインもらいに来たんだろ? 行きなよ』って純の背中を押してくれる牧野先生やさしい。けっこうな大御所作家さん(E・B大賞の大賞)に可愛がられてる純もなかなかスゴイ子だなと思う。
純は純でがんばって、古印葵を追いかけて月例賞に応募してA誌でデビュー。けど古印葵はいなくなっちゃった。ちっちゃな予告見て『3年ぶりに古印先生がA誌に帰ってきたときは本当に嬉しかった』って喜んでる純がかわいい。
『けど』
古印葵の新連載読んで愕然とする純が切ない。ここで「古印葵がスゴイと思ってたのは自分の勘違いだった。古印葵はオワコン」的な思考にいかなかった純の盲信もたまらんうえに、純の行動の傲慢さもなかなかのもの。
インタビューのときの『今そんな話してないんですが』って顔。アシスタントのライングループ退会しちゃうとこ。アシに『もしかして先生って感情がない?』なんて失礼極まりないこと言われたときの顔。純がやべー怖い。怖い。
そこからちょっと時間進んで、編集部。
毎週打ち合せに編集部に来てる人気作家。漫画描く手が速い、家事は超効率化ってのもあって時間が作りやすいんだろうなあってのはあるけど、この人絶対古印葵の情報収集のために編集部来てるわ……って思う。
偶然、古印葵の担当が持ってた案件が、望海可純の目から見ても古印葵がぴったりだったのはあるだろうけども、『そういえば菊池さん』『前に古印先生の担当してませんでした?』ってさりげなさを装うところが、望海可純のすごいところだなあと。
菊池が去った後の担当の桜木との話で、さらっと『電子で出てる古印先生の単話の奥付に菊池さんの名前があったなって思い出して…』と、大失敗の古印葵作品ですら電子で買ってることがわかる。(掲載雑誌は献本で持ってるんだと思うけど、10冊くらい買っててもおかしくない、純はそういう人だと思う)
『ファンなのでいつかお会いしたいなあとは思ってますね』『じゃあもし打ち合せにきてくれるってなったら日時教えましょうか?』『ぜひ!』の流れもいい。純ったら、うまいことやったわね。
その後の桜木の話が純に最悪の想定させて、矢晴の保護に駆り立ててる。『数年前に亡くなりましたよって』『人づてに訃報聞いたりするんですよね』っていうページの背景のベタとか、『けっこー重めに精神やっちゃってたっぽいんですよね……』の次のページの目元のアップとか。純、むっちゃショック受けてんじゃん。
最終ページの最下段、作り込んだ感じのにこやかな純と、ちょっと寄った笑ってない感じの顔と、『絶対会いたいので念には念を…』のセリフと黒ベタが、漫画うますぎ。
最終ページで『望海先生にしちゃ珍しくネガティブだなあ』って言われてるところから、対外的には明るくポジティブなことしか言わなくて人当たりのいい感じなんだろうなあと思う。インタビューでちらっと本性(?)出てきたときは担当も焦ったんだろうなあ、普段まったく見たことない望海可純で。
- 古印葵の漫画との出会い
- E・B大賞授賞式
- 純のデビューといなくなった古印葵。3年ぶりの古印葵の漫画
- 純の布教活動
- アシスタントとの会話、純の自分の漫画に対するスタンス
- 布教しても一向に古印葵を認めてくれない世の中
- 編集部。菊池担当の小説の挿絵に古印葵をすすめる
- 古印葵が編集部に来るときの日時を教えてもらう約束をする
- 一人で活動している漫画家が人知れず死亡している事例があることを担当から聞く
- 担当が最後に古印葵に会った時の状態を聞く
- 絶対に会えるように不安要素を取り除く
【上薗純、曰く その(1)】とあるので、【その(2)】に続く。
古印葵の漫画に出会ってから、直接会うための約束を取り付けるまでの純の行動。ちょいちょい怖い。純が怖い。けども、古印葵に入れ込む理由が明かされて、純が真剣に純粋に古印葵が好きなのだとわかる。わかる、わかるよ、そのファン心理。
この話を読んでから、【第2話】の出会いのシーンを見返すと、純の「古印葵に会うためのおしゃれ」とか気持ちとか、何十倍にもふくらんで感じられる。
まだ元気な頃の古印葵がかわいい。
いろいろがんばる純が健気でかわいい。
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