人間らしくありたい矢晴

 矢晴自身は、かなり病んでるとはいえ、持ち前の聡明さと感受性の高さは損なわれてなくて、世間一般に認められるような人間らしい状態でいられないことが病みを加速させてるのかなと。

矢晴がアパートをゴミ屋敷にしちゃったのは、『ゴミ屋敷作るほど性格が怠惰』なわけではなくて、睡眠不足やらなんやらからゴミ出しの時間に起きれなくなって、ゴミが溜まっていってしまった結果がゴミ屋敷ってだけで、ゴミをまとめる(ゴミ袋に入れてゴミ出しできる状態にしておく)ことはできてるわけで。

溜まってしまったゴミを一気に処理できるような気力も体力もなくなっちゃった結果だから、そこを「性格が怠惰」と言われると辛いなーという気がする。矢晴のゴミ屋敷は外界からの防御壁としてのゴミ屋敷ではないだろうなと。

防御壁だったとしたら、純がさくさく掃除しちゃったのは最大の悪手にはなるんだけども。

【第8話 零・クッション】での『ダメにする…というより人をゼロにするクッションだと思えば』『矢晴さんにとっては今より良くなるクッションじゃあないですか?』と純が言ったのは、現状の矢晴の「ダメ人間=マイナス」を「人=ゼロ」にするってことで、矢晴にとってはかなり救いのある言葉で、その後の『…おかえり』『ただいま』から『こんな日がずっと続いたらいいですね』の流れが、緩やかな幸せに満ちててとても良い。

この話のラストでの『人間らしく振る舞わなくていいですよ!』に応えた矢晴の笑顔は、私には読み切れないのだけど。人間らしくありたいはずの矢晴にとって救いの言葉であるのかどうか、わからないなあと思う。このときの矢晴の笑顔はとても綺麗だなとは思うから、純の言葉が矢晴の救いであったならいいなとは思う。

【第9話 再現・クリエイト】の後半では、純の天才性に触れて、自分が何もできないことを嘆いてるけども、純はちょっと常軌を逸してる感じだからそこを比べちゃなんねえよ、と背中をさすってあげたくなる。漫画家・望海可純に対して、漫画家・古印葵は『そんなことひとつもできない』って考えちゃうってことは、矢晴自身が「人間でありたくて、漫画家でありたい」って思ってる証左かな? とは思える。

編集部に行ったときに『仕事を投げ出したことをちゃんと面と向かって謝ろう……』『それで全部終わりにしよう』って思ってたのに、結局、純によって古印葵が留められちゃったのもあるだろうけども。

純の世話になりつつも、ある程度回復して、漫画家として復帰してくれる、のは第1話ですでに語られてるからそこまでの道のりがはやく読みたい。矢晴が望むような人間らしい生活ができるようになるのか、人間らしく振る舞わなくても大丈夫って思えるようになるのか、どんな展開になるんだろうか。


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