古印葵は死んでない
【第10話 経験・アンデッド】のラストページが、本当に良くて。何度も何度も読んでしまう。純がキラキラしてるのも好きだけども、やはり『まだ古印葵は死んでない』という言葉が見たい。
【第4話 荼毘・アルコール】で矢晴が涙ながらに訴えた『古印葵は死んだと思ってください』という言葉を受けて、純は『古印葵が死んだとしても』と古印葵の亡骸である福田矢晴を助けようとする。たぶん「古印葵だった人」というだけで十分だったのかな? とも思うし、【第6話 上薗純、曰く その(2)】で描かれた「ミント色が錆びた柵」のエピソードから、古印葵がまだ残っていることを感じていて、「自分なら古印葵を復活させられる」とでも思っていたかもしれない。
矢晴が古印葵でなくなっても、純は助けてくれたと思う。福田矢晴が古印葵の亡骸だから。とはいえ、純は矢晴のなかに古印葵を見てるから、戻ってくれるものなら、戻ってきてほしいと思っている、はず。
同居5日目。古印葵を真似したネームを、矢晴に見てもらうときの純がとてもかわいい。炬燵に潜り込まんばかりに埋もれてドキドキしてる感じが、ほんの小さなコマから伝わる。自分の描いたネームに矢晴=古印葵からアドバイスをもらっているときの純はなんだか純粋な少年のようで、悪い言い方をすれば知能指数が下がってる。同居から数日間、矢晴がアルコールを求めてあれやこれややってるのを止めてたりしてた怖い純(矢晴から見た純の印象)との落差が激しい。そしてかわいい。
『今度から古印先生にネーム見てもらおっかなあ!』
『いやいやないない無理無理作風がダメになりますよ…』
矢晴自身は、望海可純の漫画はデビュー作と連載を2話までしか読んでない。編集部で純が矢晴を褒めながら、自身の作品を卑下していたことしか聞いていない。そしてここで、「古印葵の真似をしたネーム」を読んだだけ。
それなのに、ネームを見た後に純にした話はとても的確に純の作品をとらえていて、純の作品が変容しないように、「望海可純の作品」を楽しみにしている読者のことまで考えて話してくれた。
矢晴は話した後にすぐに部屋に戻っているから、もしかしたら「余計なことを言ってしまった」とか「漫画描けないくせにえらそうに何言ってんだ」とか自己嫌悪にのたうちまわってるかもしれないけども。
残された純の、矢晴が扉を出ていくのを見送る純のキラキラした瞳と『まだ古印葵は死んでない』という言葉が、とても輝く。
漫画について話すことをしなかった矢晴が、こんなに饒舌に漫画について話してくれた。古印葵の頭のなかをほんの少し覗けたような感じ。「これが、古印葵!」という驚愕などなどなど、列挙したいことはあれども、語彙が足りない。
まだ矢晴のアルコール依存やうつが治ったわけじゃないから、ほんの一瞬、矢晴の本質が顔を見せただけだろうけども、これから先、取り戻すべく目指す目標が見えた。がんばれ、純。
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