天才×天才の物語

 【売れうつ】自体は、系統の違う天才同士の物語。

矢晴は芸術家タイプだから、人間らしい生活とか労働と対価がどうこうとかをよそにやって感じるままに世界を捉えて表現できたら一番輝けるんだろうなと思うから、純は『人間らしく振る舞わなくていいですよ』って無邪気に言うんだろうけども、矢晴は「世の中の認める人間でないと価値がない」みたいに思い込んでるから、そこらへんをほぐすところから純はがんばれ。

純は職人タイプ(といえばいいのか、純を表すには言葉の選択がよくわからない)で、メソッドの分析・再現ができて、理論的に組み立てて考えたとおりの読者の反応を引き出すことができる天才。だからたぶん、菊池さんが古印葵の連載でやりたかった『ここで〇〇〇〇〇ってセリフを入れると乙女心が掴めるんですよ』みたいなことを毎回やれてしまっているんだろうなと。

対極にある天才同士だから、お互いに相手に自分にないものを見てて、それがうまいことお互いを補う形ではまれば幸せになれる気はするんだけど、一番難しそう。

純が考えに考え抜いた「言葉」は矢晴には響かずに恐怖しか与えないし、あまり考えずに話した言葉は矢晴を追い詰めてて、どっちにしろ詰んでるんじゃ…? という雰囲気。純が矢晴を説得(籠絡)するのにあの手この手で言葉を変えるから、どうにも純自体が信用できない雰囲気が強まるんだよねえ。


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