純のプラン

 純には、編集部で古印葵と仲良くなるためのプランはあったかと思うのだけど。

四階が乱入してきたことで崩されたんじゃないのかなー? とは思う。「四階をけしかけて、窮地に陥った古印葵をヒーローのように颯爽と助ける」なんていうプランではなかったと思うし。熱烈なファンである純が「自分をよく見せるために憧れの古印葵を貶める」ような計略はせんだろう、と。古印葵の大失敗の連載作でも電子で買ってる筋金入りのファンなんだから。

古印葵が打ち合わせに来る時間を聞いているから、おしゃれして。

打ち合わせの邪魔をしない程度に時間をずらして編集部に来て。

打ち合わせが終わるかな、くらいで顔を出して、挨拶して。

編集部で打ち合わせブース借りておしゃべりでも、喫茶店に誘っておしゃべりでも、なんでもいいから、多少親交を深めて連絡先を交換したいとかあっただろうし。サインももらいたかっただろうし。

程度のプランだったんじゃないかなー、と思う。


そもそも、編集部で担当から「古印葵は重めに精神やっちゃってたから、死んでるかもしれないね」って最悪を想像させられてるから、「古印葵が打ち合わせに来てくれることになったら日時を教えてもらう」約束によって、古印葵の生死は確認できて。

古印葵が打ち合わせに来るよってなったときには「やったー! 生きてたー!」って感じで舞い上がっちゃったんだろうなあ、と。おしゃれに気合い入りすぎた感じから想像できる。

編集部に行ってみたら、四階が古印葵に罵詈雑言言ってるのが廊下にも聞こえて。ブースの影でじっと耐えて。話の切れ目で割って入って、古印葵に挨拶して。

記憶のなかの4年前の古印葵と比べたら、目の前にいる古印葵は恐ろしくやつれてて。ショックだったろうな、とは思うけど、そのショックを吹き飛ばすくらい四階が失礼で。

四階やりこめたら、古印葵に悪印象もたれちゃって辛いな……純……。

どうにかこうにか引き止めて、サインもらって、夕食まで一緒にいられることになって。居酒屋で映画の話してるときにでも「今度一緒に映画行きましょうよ」とかってさくっと連絡先ゲットしてたかもしれないなと、思える。

したたかに酔っ払った矢晴を家に送るってことになって矢晴の家に行ったら、あんな惨状で。

ほんのちょっと踏み込んで、漫画家とファンの立場から、漫画家同士とかお友達くらいにランクアップして親交できるようになりたい、くらいだったんじゃないのかなー? というところから、「まず死なせたくない・とにかく元気になってほしい・憂いをなくしたい」になって。『好きな人が目の前で死にそうだったからあれこれ悩む暇がなかったんです』ってのはすごく正直な言葉だなあと。


実際のところ、純の「古印葵とお近づきになりたい計画」は「同じ雑誌に載りたいから月例賞に応募した」あたりから進行してて、E・B大賞の授賞式では「賞を獲った漫画家とサインをもらうファン」の関係でしかなかったけど、翌年のA誌の謝恩会あたりで「漫画家同士として仲良くなる」くらいのプランだったんじゃないのかなー? って思える。

現状、仲良くなるプランは、「同居して療養させる」に変わっちゃったけども、古印葵である福田矢晴のそばにいられることにはなって、これからは「矢晴の療養プラン」を考え続けることになってるけども、同居してたった6日であんな笑顔を引き出せてるから「療養させながら仲良くなる」って感じでどっちもいい感じにいきそう……かな?


コメント