【感想】第13話 上薗純、曰く その(3)後編

【その(3)後編】で、前後編揃ってで【第13話】総55ページということで、大ボリュームの純曰く。今回は【後編】の感想。いまだ、消化しきれてない気がするので、感想……ねぇ……みたいな気分にはなっていたりする。それはそれで、今の感想だからいいのだけれど。

表紙なしの本文始まり。前編の続きで、同居4日目、マウスウォッシュを飲んだ矢晴が自室のベッドに居るところ。純が矢晴に「矢晴に見えている純の姿」を聞いて、『私の顔を見て確かめてください』『あなたが背中で見ている不安は存在しないことを』と訴えて、矢晴が振り向いて……の後。

「振り向いた矢晴が見たものは――!?」とでもアオリ文が付きそうなシーンからの続きが、矢晴の睨みつけるような強い目で。純の姿は純の視界に入った手とか、足元だけなので、矢晴はいったい何を見たんだろう……? と気になる。

トーンのかかる「睨みつけるような矢晴の目、冷たい視線、顔つき」が純の印象でしかないのだったら、この話の中盤で純がベッドの中でタブレットで見ている「クレショフ効果」が、この時点で純に発動しているのでは……? と思ったのだけど、どうだろう。

純は、そんな矢晴の冷たい視線に気圧されて、萎々と床を見てしょんぼりしてる感じが、前編の勢いはどこへやったんだ、情けない! という気分になってしまう。

それでも振り向いて、身体を起こして座った矢晴が、純がベッドサイドのスツールに座り直したところで『自覚はあるんです』と話し出してくれたあたりは、矢晴が自分のことを純に話せるようになってきたという「良い徴候」ではあるのかな? 話し出しても矢晴は純のこと全然見やしないけど。

純は矢晴が話し出してくれたことで、本で読んだこと思い出して、矢晴の話に関連しそうなこと並べ立てるんだけども、「本で読んだ」「書いてあった」と受け売りで『突然のうんちくマンになってしまった』ってちょっと落ち込んでるところがかわいい。

それに対して『純さんもその方面の本読むんですか?』って言ってる矢晴がうすく微笑んでるのが、純は『あ 笑ってくれた かわいい』って思ってるけど、私には、けっこういやらしい笑い方するわね、矢晴……って思えて。本の受け売りでしか話さない純を侮ってる感じがしている。でも、けっこうちゃんと純の方を「見て」微笑んでるから、「本を読んで知識をつけようとしてる純を評価している」のかもしれないなーとかも、ちらっと思い始めた。どうなんだろう。

その後の矢晴の話しぶりとか内容は、かなり真面目にしっかりと話してくれてると思うんだけども、「情報源感作」が後々どう展開するのかで、話が変わってきそうだよなあ……と疑っている。

【第12話】の『どれだけ本やネットや人の話を漁ろうが体験しようが知った気になるだけで全知は不可能だ』とか【第13話 後編】の『水面のない海で溺れてる時知識なんてほとんど無力です』とか、なーんか、純の「付け焼き刃の知識」をチクチクと刺しているような気がするんだけども……。

同居5日目のネーム読んでもらうエピソードは1コマで済まされてしまい、ちょっとさみしかったりもするけども、同居6日目の【第11話】でこの純の表情変化はなんだろう? って思ってたところは『質問に答えられなくて誤魔化してしまった』と語られる。やっぱり誤魔化してたのか! と思うものの、私が思っていたのは思考の共有「地雷踏んだ」「取り繕わなきゃ」「そうだ!」みたいな感じかなー? ってので、それとはまた違ってたなあ……と。そもそも、純は自分が地雷踏んだと思ってなさげで。いやんもー! 『質問に答えられなくて誤魔化してしまった』『もっと色んな事を考えて答えられるようになりたい』じゃねーんだよぉおおお! と叫びたい。矢晴とちゃんと会話・対話できるように知識をつけたり考えを深めたりしたいって気持ちも大事だけど! ちょっと違う。

『それと』『いっぱいこんな顔が見たい』って矢晴の全開の笑顔がかわいい。ちょっと遺影に見えてしまう切り取り方なのが気になるが……。こんな笑顔をいっぱい見たいのは同感だ! がんばれ、純! おまえが笑顔にさせるんだ!

純と矢晴がふざけあって、ロボット掃除機と走り回って、遊び回って。同居6日で笑顔になってじゃれあってたのにも驚いていたのに、そんなにはしゃいでたのか! と驚きすぎた。

純は夜更ししてたら漫画描けないからって言ってたのに、けっこう毎日夜中に仕事部屋やベッドの中で勉強してるっぽいなあと思える、「クレショフ効果」を読んでる純。昼間もしっかり矢晴の話を聞く時間を確保してるっぽいし、夜もけっこう遅くまでいろいろ読んで考えたりしてるっぽいし……矢晴のためにかなりの時間を使ってるっぽいんだが、ちゃんと仕事できてるのか……? と心配になる。

同居14日目、トイレ前で矢晴のうんち待ちしてる純がかわいい。人間ドックをふたりで受けてるのも、とてもいい。矢晴ひとりだけで受けさせたら、「自分のために大金使わせた」みたいに矢晴が気に病みそうだもんな。純、えらーい。むっちゃ矢晴大事にしてくれてるわぁって嬉しくなるんだけど。

そんなふうに大事にされているというのに、同居21日目の矢晴ときたら……。なんでそんなしょっぱい……。うっとり話聞いてる純がかわいいのにー! なんでそんなしょっぱい……。ううう。

『私は漫画を描かなくて済むんだ』と言う矢晴に『――え?』と起き上がる純。『だからもう漫画家にならない』とキラキラと溶けて消えてしまいそうな晴れ晴れとした笑顔の矢晴に、「死ぬんか……?」とドキドキしちゃうんだけども……。『全部お前にやる』という笑顔がいやらしくって、どんな心境でそんなことを言っているのか、ほんとに気になる。それを聞いた純が黒バックですごいショック受けてて。そんな事言われたらそうなるよなあ……。

純が声を荒らげてるけど、感情的に怒鳴りつけるとかじゃなく、真っ当に説教してるのが良い。王道漫画の主人公の説教っぽい言葉選びだなあと思うから、純の漫画のセリフはこんなかもなあとも思わせる。

そして『私じゃ古印葵を紡げないのは私が一番知ってる』という悔しそうな純の顔と、愕然としてるのかそれとは違う感情なのか何を思っているのかよくわからない矢晴の顔と、ふたりのコマに流れる切れた縄が、やっぱりなんなんだろうなあ……。これまで再三「死の象徴」として縄が出てきてて、ここに来て違うものを象徴するとは思えないんだけども……。ううん。わかんない。

別日、お医者に断酒を褒められて良かったと純が矢晴をぐるんぐるんしてるのがかわいい。手を握り合ってるでなく、純が一方的に矢晴の手を掴んでぐるんぐるんしてるのがかわいい。それにしてもどこでぐるんぐるんしてるんだろうか。矢晴の病院にはふたりで電車で行ったのかなあ。そうでないと矢晴が交通系ICカード持ってる理由がないもんなあ。

で、断酒褒められた数日後、同居1ヶ月目。粗相してしまった矢晴を風呂に。純は矢晴の部屋の窓の外でボトルを拾ってて、でも飲酒を責めるでもなく『スリップは回復の段階であることだよ』とふつうに言ってて。とはいえ、矢晴は『慰めるな私がみじめになるだけだ』とツンケンしてて。ここの『この家の中で矢晴を馬鹿にする人は矢晴以外いないよ』って言い方が、けっこう好き。純がすっかり矢晴に慣れた感じがする。

【第2話】の同じシーンと比べると、椅子の形をはじめとして、いろいろちょいちょい作画が違うなあーとか思うから、6年後にペン入れされるとけっこう変わってしまうシーンなのだな、と変な方向に思いを馳せてしまう。

『体の外側のことはいくらでも見せてよ』『内側はいくらでも隠せるんだし』の「内側」ってのは結局何を指してるんだろうかなー? と思う。このシーンでは、矢晴は『私の頭の中もお前の頭の中も歪んでる』と言って、純は『歪みって人間がもつ脳内フィルターだろ』と受ける。純はそれを「創作者のこだわり」と「祈り」とで話して「歪んでてもいい」「歪んでるのがいい」って言ってる感じかな。と考えると、このシーンの純は、矢晴を全肯定して、すべてを受け入れてる感じはする。けど、「矢晴が純に恋し始めてる」とわかって受け入れようとしてるようには、見えないな……。

純はもともと矢晴が好きだから、どんな矢晴でもウェルカムな感じはするけどさー。でも矢晴のことわかってなさそーな雰囲気もあり。

『祈りは矢晴の言う歪みから生まれるけど』『なかなかどうして良いものじゃないか』と純の笑顔と雪が舞うような風景で【第13話 後編】は終わり。【第14話】が気になるー。

  • 同居4日目。振り向いた矢晴。うなだれて床を見て、座り直す純。
  • 記憶が変形している自覚はあると話す矢晴。本の受け売りを話す純。
  • 「情報源感作」
  • 同居5日目。
  • 同居6日目。「質問に答えられず誤魔化した」。笑顔の矢晴。はしゃぐふたり。
  • 「クレショフ効果」
  • 同居14日目。人間ドック。
  • 同居21日目。『全部お前にやる』『固い瓶のフタは急に開く!』『私じゃ古印葵を紡げないのは私が一番知ってる』
  • 矢晴の病院。断酒を褒められたことを喜ぶ純。
  • 同居1ヶ月目。粗相した矢晴を風呂に入れる。「歪み」「脳内フィルター」「祈り」

純視点だから矢晴の気持ちがわからないのは当然なんだけども、純の本心や内心もわかりにくくて、これから開示されていくんだろうなあとは思うのだけど、わからないから不安にはなる。

【第2話】の風呂上がりでソファーで臥してた矢晴のシーンでも、雪の降ってるようなキラキラした感じのコマがあったから、たぶん雪が降ってるんだろうなと思うから、冬なんだなあと改めて思う。そんな雪が降るような季節で玄関そばの階段で180分は寒すぎるって! と【第12話】の矢晴に思いを馳せる。そんな寒い思いして寒い中飛び出してって風呂にも入らず酒飲んで……うう、矢晴……。

この話が【第14話】になるのかなー? って思ってたけど、これは【第13話】だったから、次が【第14話】で告知されてたほのぼのライフの最後の話で。どんな展開になるのか楽しみだけど、不安。ドキドキする。矢晴がテーブルに置いてある純の漫画を手に取ったりするかなー?


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