【感想】第17話 上薗純、曰く その(5)
\祝/ 800記事目!
前回更新から3ヶ月弱、待ち焦がれた更新で。同居1ヶ月目の最高の顛末に感動に打ち震え。いやはやもう、ほんとに、たった1ヶ月でここまでの関係に、なのか、1ヶ月も経ってやっと、なのかはわからないけども、
さてさて、感想。【第17話 上薗純、曰く その(5)】
表紙は穏やかな海で海水浴を楽しんでいるのか、穏やかな思考の海でたゆたっているのか浮き輪の矢晴とそこに向かって泳ぐ純。こんなふうに海水浴を楽しめるようになるのかな、夏。矢晴はもうちょっと肉がつくといいよね、ってくらい骨が浮いて見えるのがほんと貧相な体つきというのを強調する。
前回、矢晴の療養のためには同居解消も辞さない雰囲気で部屋を出ようとした純のパジャマの裾を掴んで引き留めた矢晴。シリアスな雰囲気から一転、話の冒頭は若干コミカルになり、純が『めちゃくちゃ泣いてる』『過呼吸〜〜〜〜ッ』と焦った顔を見せる。
矢晴の過呼吸に対処しようとする純に矢晴は抱きつくけども、純は『力強いタックルしてきた』と、なんだか見当違いな思考になってて、私はこれは矢晴の渾身のハグだと思ってるけども、純はタックルだと思ってて。実際は矢晴が純を逃さないように捕まえてるだけかもしれないな、とも思ったりするけども。
矢晴は過呼吸の乱れた息の中、純に変えられていく自分のことを話そうとしてるけど、純にはまともに聞こえてなくて、純もまともに聞いてくれてなくて、こんちくしょうめー! と読みながら、思う。
『きょうのッ薬はッ』『のッんだ』となかなかの形相で告げる矢晴に、『え?』と聞き返す純。私はこのシーンで矢晴にズボンを引っ張られてちょっと脱がされて見えちゃってる純のパンツを凝視してしまうのだけど。ついでにパジャマのズボンのポケットまで描写されてて、こ、こまか! と思ったり。
結局のところ、矢晴が薬を飲んだのかどうなのか、は謎のままだけど、どのみち薬飲んで効いててもマイナス20なんだし、やっぱり雨が降っていて気圧の変化があろうかな、って感じだし、昨日の夜から大変だったんだからこうなっちゃうんじゃない? という感じはする。そもそも、昨日の夜の薬は飲んだのか……? 階段で180分待ち続け直後に飛び出し、酒買って帰ってすぐベッドに入ってて。夕食後すぐに薬を飲んでるなら2階に上がったりする前にはちゃんと飲んでたのかな。でも酒飲んだから薬の効果が出なくて、飲んでないのと同じ、みたいな状態だったら、今日の薬飲んだとしても効果が薄いとかもあるかもしれない、とか考えたりする。
ただ、純は前の日になにがあったか、今日何をして何を話したか、とかまできれいに忘れてるのか、口先だけで生きてるから、なにがどうしてこうなった、みたいな考え方をしないだけなのか……? うううん。
その後の『それでこれだぜ』〜『殺してくれ』の矢晴は明瞭にしゃべってるけど、純が聞き取れた言葉を純の心象で再構築してるのかな? とは思える。こんな海にいるわけじゃないし。波にさらわれた矢晴に駆け寄る純はかわいい。
溺れる矢晴に、自分はどうしたらいいのか、ってずっと考えてる純の思考が焦っててとっちらかってきてパニックになってるなと思う。成人男性抱えて腰いわすかもだから自信がない、やめとけって考えてるところが、好きだけど、冷静すぎやしないかい? とも思える。そんくらい冷静な部分もあってくれないと矢晴を任せられないけど、矢晴が倒れても抱えて運ぼうとか出来なかったりして手遅れになったらどうすんだ? とか詰め寄りたくなる。たぶん今目の前で生きて元気だから冷静でいられる部分があるんだろうなとは思うんだけど。
『離れてる間に大変なことになって後悔したりしないかな?』と矢晴が自殺する可能性を考えてそうだけど、矢晴が死んだらどうしよう、じゃなくて、「大変なことになって後悔するかも」というあたりがちょっと気になったりはする。死ぬことを直視したくない思考かもしれないけど。
『どうしたらいい?』『ここでなにをすればいい?』って自問してないで矢晴を抱きしめて矢晴の話を聞けや! って思っちゃうなあ、ここ。
そして、どんどこ現実逃避して脳内会議が始まって。純の頭のなかも大変なことに。
純は矢晴のどんな部分を指して怪物って言ってるのかなあ? とはずっと考えても答えは出ないけど。そういえば手術着の純が持ってるメスは電気メスなのかな? その下のコマで握りしめてるのも電気メスなのかも。と思い始める。でもやっぱり、バケツの取っ手にも見える。どっちだろ? 手術で摘出した“怪物”をバケツに入れてるのかと思ったんだけど、どんな扱いしとんねん!って気分になりつつ。
パジャマの純以外の純は他人事みたいな雰囲気だけど、これも「矢晴の命が大事なのは自分だけ」みたいな思考になってる感じなのかなあ? 純自身の多面性、というよりやっぱり多重人格っぽく見えてしまう。
矢晴の話した『「相対的に同じ条件」で想像しなきゃ〜』というのを思い出して、『ああ』『そうか』と納得して、矢晴と一緒に溺れに行く純がなにを納得したのかわからんのだけど。そして浜辺の純の言う『同じ立場になったんなら』『声くらい聞こえやすくなっただろ』の「同じ立場」って……? と疑問ではあるんだけど、純は溺れてる矢晴を眺めるだけじゃなく、ちゃんとそばに行って話を聞こうとしてくれてるわけね! と嬉しくはなる。
ちょっと前後するけど、『海水には夢見がちな蓮も咲くまい』という浜辺の純の言葉が素敵。古印葵に酔ってる純は出てこないってことだけど、ここで古印葵に酔われてもお互い最悪な展開にしかならなさそうだし。
海の中矢晴に蛸のようにしがみつかれながら、矢晴の話を聞いてる純。でも矢晴と相対して話を聞いてる、という感じではなさそう。この矢晴の言葉がどれが本当に矢晴の言ったことで、どれが純の想像なのかもわからないし、矢晴の言ったことの全てなのかどうかもわからない。全部余すところなく聞きたいのに。
何度読んでも、今回の話はわからないことだらけだなあ! と思う。
浜辺の純が『分かった!』と矢晴のことを説明してくれるけど、パジャマの純が『君が分かってきたぞ』『やった』『やった!』なんて喜んでるから、この純の分析を信用してもいいものか……という気もしてしまうし。純は現実に引き戻されて『現実逃避してる場合じゃない。』と考えてるし。
テンパり過ぎな純はかわいい。誘惑する矢晴は妖艶できれい。
【第15話】で『なんでもするしなにしてもいいよ』と言った割に、なんでもしないしされても拒否してるっぽい純は、それはそれは『この口先だけ薄っぺらが』と罵倒されても本当のことだから反論できないだろうなあという感じはする。
誘惑されて、また現実逃避を始めたらしいけど、今度は古印葵と編集部で会った時のシャツを着た純がなにかの建物に入っていく。純の妄想のなかでは、ここは古印葵の心の中、ということになるよう。
奥行きのほとんどない建物の内部に、左右に無数の扉のある長い廊下。純は『扉の中全部見たいなぁ』と好奇心しかないような。ここらへん、現実世界では純は矢晴の誘惑に好奇心で乗っちゃってるのかな? 浜辺の純と会話しながら古印葵への好奇心剥き出しにして扉をドンドンガチャガチャやってるけど、矢晴のことはどうでもよくて自分が楽しいことだけを考えてるみたいな、この子なら【第13話】で『にゃはって言って私を嘲笑ってる』『ずーっと見下した目をして私で遊んでる』って矢晴が言ってたことしそうだなあ、と思える。純は誠実な子だけど、そういう一面もあるのを矢晴が見抜いていたのか、漏れ出ていたのか。
でも、結局は理性が勝ったのか、矢晴の関節キメて引き剥がしているあたり、純がえらーい、と思うけど、やっぱりほんとに右手はヤメロって。古印葵の右手ぞ。
この関節キメてるときの純の顔がこわい、かわいい。どこ見てるんだ? って感じの無表情でもないけどなんか変な感じの。純が心のなかで関節キメてるのは矢晴じゃなくてドアをドンドンガチャガチャやってた自分自身かもな、って感じもする。
『私はあなたの理想じゃない』という純の言葉が、なにをもって矢晴の理想だったのかわからんのだけど、矢晴と純の間ではふつうに通じてるのは、頭のいい人間同士の会話だからだろうか。
純が矢晴の「殺せ」という要求に対して『自由意志じゃないのなら私は従わない』と言って、『私は君の言うことを聞かないけど』『私は君を見捨てない』というところに着地したのは同居続行の誓約にもなるのかしらん?
純の『約束する』に対して、矢晴が純の頭を掻き抱き、『約束するならあれやれよ』とダメ押ししてるところが、えっちな雰囲気でたまらん。汗かいて動揺してるような純の表情と『証明しろ』って言ってるどこか満足げな矢晴の表情の対比もまた、たまらん。浜辺の純の『お前は〜ニセモノ』と対になる『彼は』の後がどんな言葉が続くのかも気になるし、純が印鑑捺せたのかどうかも、気ーにーなーるー!
で、朝チュン。
何事もなかったのか、乗り越えたからの雰囲気なのか。広いベランダで温かい飲み物飲みながら話すふたり。矢晴が昨日の昼間にちらっと読んだ「シヴァ・アンバー」の3巻冒頭のモノローグ後半(【第14話】で『野心的で前向きに発展させた内容…』と評した)を『好きだ』と言った、矢晴が好きだ。
【第14話】で『もしかして』『私の作品〈アレ〉への返歌……か?』と思っていた部分を『好きだ』と告げて、純からは『あれね』『古印葵宛の手紙だよ』と疑問への解答が得られた、その時の矢晴の顔がかわいいんだこれが。
でも、この時に純からぜんぜん違うことが言われた場合には、その後の『……私達は』からの矢晴の話はなかったかもしれないな、と思えたりもする。純ったら『……』ってちょっと考えると矢晴にとっての大正解みたいなこと言えるのに、普段の考え無しで発言した時の地雷っぷりよ……と、思考が逸れた。
矢晴が昨日の夜の顛末の意図を話して、謝る。純が『いずれするケンカだったなら謝らないでよ』と言うのが好きなんだけど、その後の『ね』『私達の関係ってなんだと思う?』と言ってる辺り、実はこの子には昨日の顛末なんも響いてないのでは……? 疑惑を少々持ってしまうのだけど、どうなんだろう。そもそも矢晴も「ふたりの関係の是正」というよりは「自分の気持ちの整理」が主題だったような気も……。と、感動のラストシーンに向けて水を差しまくってしまう。
純の問いかけに答えたくない、答えられない感じで、『タバコでも吸えてたら』『こういう時煙だけ吐けて便利なんだろうな』と言う矢晴に『君もろとも全焼してたろうよ』と明るく言う純。古印葵の死を恐れてた感じの純の言葉にしちゃ明るすぎるけど、それに対して「純と会う前に死んでなくて良かった」「純と会えて良かった」「生きてて良かった」とこの現状のなにもかもを喜ぶような『タバコ吸ってなくて良かった』『タバコ吸ってなくて良かったぁ』という矢晴の言葉と、純の肩を抱く矢晴の行動が、もーーーー! たまらん!
ここが最終回でも納得だ! でもまだ続くのは知ってる! という気分で、待て、次回。
この先の展開で、先に明示されてるのは同居1年後に矢晴が漫画を描いて純に読ませているということだけで。これからはそこに至るまでのあれやこれやが楽しみだ。
- 引き留められた純が振り向いた先、めちゃくちゃ泣いて過呼吸の矢晴。
- 純を逃さないように抱きつきながら話をしようとする矢晴。
- 薬と飴を持ってこようとする純を引き留め、「薬は飲んだ」と告げる矢晴。
- 「殺してくれ」と願いながら波に呑まれる矢晴。
- 純の思考と自問。脳内会議。
- 純の妄想世界:矢晴と同じに溺れる純と、浜辺の純。海中で蛸のような触手に巻かれる純。
- 純が把握した矢晴の気持ち『醜い上薗純に甘えたいけど〜』『醜い純を好きになるくらいなら〜』
- 現実世界:首を絞めろと純の手を持ち首にあてがう矢晴。
- 『仲良くなろう』
- 純の妄想世界:襲われていると警告する浜辺の純。誘惑されてると理解する純。
- 『また奴の魔術にかかる気か!』
- 純の妄想世界:海上に建つ門と小さな建物。建物に入っていく純。
- 無数の扉の中身を全部見たい純。扉を叩き、ドアノブをひねり続ける。
- 『彼の肉には一ミリも興味も性欲もない』『ただ、共通の秘密をもってはしゃぎたいだけなんだ』
- 浜辺の純が懸命に制止する。
- 現実世界:矢晴にプロレス技をかけてダウンさせる純。
- 『私は君の言うことを聞かないけど』『私は君を見捨てない』
- 純の頭を抱き、約束の証明を求める矢晴。
- 朝チュン。
- 純にシヴァ・アンバー3巻のモノローグ後半が好きだと告げる矢晴。古印葵宛の手紙だと答える純。
- 昨日の夜の顛末の意図を伝える矢晴。
- ふたりの関係を問われるが答えない矢晴。
- 『タバコ吸ってなくて良かったぁ』
同居1ヶ月目、最低限度の一線がなんだったのかは結局わからんけども、なにかを乗り越えた感じのふたりは、なにかの一線を超えた感じだし、矢晴は純への不信感不審感はかなり減ったように思う。
純のとっちらかりっぷりがかわいい。けど、純は結局、性欲を持ちたいのかどうかわからん。
純と出会えたことを寿ぐ矢晴がとてもいい。とてもいい。
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