判断材料
純が、「矢晴が純のことを好きになっている」と気づくのに、なにを判断材料にしたのかが、気になるなあ、と思っているんだけども。
矢晴自身が、純のことを好きになっているのかも? と気づいたのは【第12話】の『純にとって私はチワワ何匹分だよ?』だけど、それ以前に、兆候があるのは同居して3週間が過ぎ酒を探して部屋を荒らして病気の話をした日、食事中に純の『それに私は大きい家に好きな人を集めて一緒に暮らすのが夢なんだ!』という話を聞いて『自分の価値がすごく下がった気分になるのはなんでだ?』と純の一番、純の特別ではなかったらしいことに気づいたところで。
矢晴は純と暮らしてから急速に純に惹かれていた、のか、純に慣れるにつれ依存と情とが高まっていったのか。たった1ヶ月でずいぶんと盛り上がる気持ちは漫画的超展開かもしれないが。
純がこの時点で、材料として知り得た部分は矢晴が「チワワ何匹分だよ?」と聞いた直後に家を飛び出した。ということにはなる。
そして翌日。【第14話】で酒を飲んで粗相した矢晴を風呂に入れ、その後、矢晴に『純って恋人作らないの?』と聞かれる。純は、「時間がない」「品定めをするのがしんどい」と答えるものの、【第17話】まで読んだ今では、かなりはぐらかしよるのね、純め……、という気にはなる。
散歩をすすめて送り出したものの、矢晴は純のことを考え続けてしまい、無意識に酒を手に取り、たまたまなのかついてきたのかはっきりしないが、ちょうどいいタイミングで純に止められる。
この時点で、材料として知り得た部分は矢晴が「チワワ何匹分だよ?」と聞いた直後に家を飛び出し、酒に逃げ、「恋人作らないの?」と聞いてきて、また酒に逃げようとした、ということにはなる。
純は矢晴の気持ちをわかっていてなのかわかっていないでなのかわからないが、『ハグしに来なよ』『一緒に寝る?』と矢晴の劣情を煽っている気がするんだが。
【第15話】では矢晴は『赤の他人の介護みたいな世話だよ? どうしてできるの?』と質問するけども、矢晴自身が聞きたいことからズレていて、純からの返答も矢晴の欲しい言葉とはズレる。
“湯冷め”の対処で、純はごく自然に肌に触らせ、矢晴は劣情を煽られつつ、防御姿勢ののち背中を向けて『……襲われるのかと思った……』と、矢晴が純を性的に意識していることがはっきりと伝えられる。
そもそも、同居初日に【第9話】肩を抱かれ、ボタンの掛け違いを直すふりして脱がされそうになったと焦り『もしかしてこれが……目的ですか?』とぼかして聞くも、純には通じず『ごめんなさい…これ…とは?』と言われたりしてるのだけども。同居1ヶ月目には「襲われる」というはっきりしたワードで言っているとはいえ、純がすぐに「性的なことだ」と気づいているようなのは、ずいぶんな進歩だな、と思ったりする。
そしてこの時点で、純は「2次元でしか抜いたことがない」と言いながらも、矢晴が望めば性的な接触も辞さない、的な意味合いで「なんでもする」と言っていることになる。
この段階で、純は矢晴が純のことを「性的なことも含めて好きになっている」と把握できているのかどうなのか。
純が意識的に矢晴の劣情を煽ってきたのかどうなのか。わかんないけど、【第17話】では『なんでもするって言ってドヤ顔で気持ちよくなってたのは どこのどいつだよ』と言われて『私です……』と認めるくらいなのだから、矢晴の欲目でエロカッコイイ顔に見えていたんでなく、実際にエロカッコイイ顔してたらしい。
その後、激昂した矢晴に『もうそれ性欲だろ』と言われて『私』『それがいいな』と矢晴のことそっちのけで自分に気持ちよくなっちゃってた感じがある。
いやもう、お前、実際なにを怖がってきたんだよ? とずっと気になっているのだけども。矢晴が純のことを好きになっているかどうかをわかっているのかどうかもわからんし、純自身に逸れてるので、ここらへんは、置いといて。
矢晴の『もうそれ性欲だろ』が「性欲であれ!」と聞こえていたんだったら、それなりに矢晴が純に性欲を向けている、性的なことも含めて好きになってきているらしい、とは把握できそう。
で、仕切り直して、編集部で会った時の第一印象が【第16話】『優しそうな顔してて優しい人なのかなって思った……』と語られ、純が四階をやりこめた攻撃性がいつ自分に向くかと怖くなったと矢晴が語る。四階がどうしてこうなった、というのはついでで、純自身だってこうなるかもしれない、とか責めつつ、矢晴自身が純にも嫌われるような人間に成り果てたことを嘆いている、ということになるのだけど。
純が矢晴が純のことを好きになっていると判断できる材料としては、矢晴の言った『お前にも嫌われるような人間に…』という言葉にはなる。「純に嫌われるような人間になった」のを嘆くのなら、「純に嫌われたくない」と言っていることにはなるから。
この時点までの情報をまとめると、「チワワ何匹分だよ?」「恋人作らないの?」、性的に襲われることを恐れる、純に「もうそれ性欲だろ」と言った、純に攻撃されたくない、嫌われたくないと思っている。くらいにはなる。「嫌われたくない」という気持ちはかなり大きい判断材料にはなりそう。
そして、寝室を出ようとする純を引き留めて、矢晴は自分自身の純への気持ちに踏み込んだ話をしてはいるけど、過呼吸によって、正しく伝えたいようには純には伝わっていない。
純が矢晴と「気道がお揃い」になってから、矢晴の言葉をどうにか聞き取って、で、矢晴が純のことを好きかもしれない、と判断できそうなのは『お前のせいで私は』『気持ち悪くなった』と『こんなにバカになった』『私を見たくない』という言葉と、甘えているようにくっついてくる、タコのように絡みついてくる、という行為。
ここで純は『醜い上薗純に甘えたいけど甘える自分はあまりに無様で見るのも苦痛で』『醜い純を好きになるくらいなら死にたいのか!』と判断するんだけども、これが本当に矢晴の気持ちに気づいているのか、「なぜ殺してくれと言うのか」に対して合理的と思える解答を構築しただけなのかが、よくわからん。
そして、「襲われている」「誘惑されてる」「めちゃくちゃ触ってくる」などから、矢晴がかなり性的に誘惑して接触してるっぽくはあるけど、それを純は「自分のことが好きだから」的には思ってなさそうだし、好きという気持ちとして応える気もなさそうだし、結局のところ、純は矢晴が純に恋してる、とわかったのかどうなのか。
『私はあなたの理想じゃない』というのが「あなたが好きになるのにふさわしくない」という意味なのかしら……? と考えたりもしてみるけども。
結局のところ、純がどんな情報からどんな判断に至ったのかもわかんないんだけど。
純以上に情報を得ているはずの読者の私もなにもわからん……と頭を抱えていたりする。そのわからん感じが楽しいんだけど。
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