みんながみんな
純は格段に恵まれた環境にいる。
大学卒業してすぐくらいにはデビューして、すぐに連載を持って、それが大ヒットして、累計発行部数1400万部を突破して、大金持ちになっている。
郊外に大きな一戸建てを持ち、家事のほとんどを外注して、衣食住に困ることなく、生活に追われることなく、創作意欲の赴くままに漫画を描き続ける生活を手に入れている。
けども、本当に欲しいものは手に入らない、らしい。
矢晴は純の恵まれた環境と才能とに『お前はスーパーマンなんだよ』『みんながみんなお前じゃないんだ』と言うけれども。
純は別段、この時点では「私のようになれ」とは言ってないじゃない、と思ってしまう。
というか、「お前にはなれない」とか「お前と同じじゃない」とか言われるのが、嫌いで。「何当たり前のこと言ってんだ。違って当然だろうが。なんで他人になる必要があるんだ?」と思ってしまう質なので、矢晴がそんなことを言い訳に使うなんて……というショックのほうが大きい。
「お前のように恵まれた環境にあれば、私だって」とか言ってくれたほうが……まだ好きだなあ、と思ってしまうけども。それはそれで、卑屈にすぎるし、まあ、なんかいろいろ……。
「私とお前は違うから、私はお前と同じレベルの創作意欲は持てない」くらいだったら、いいなあ、と思うけども、それが言えるんなら自尊心やら自己肯定感、ばりばりにある状態だわな。そっか、そうだな……。
矢晴が「みんながみんな」とか「世間の言う」とか、よそのこと持ち出してくるのが不快だったんだけども、自分がないから、よそを借りてくるんだな……。そっか。
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