純の漫画

 純自身は昔から漫画が好きで、漫画を描いてきてて、古印葵と同じ雑誌でデビューしたくてA誌の月例賞に応募して、デビューできて。

漫画家になりたい、という夢はもともとあったけども、古印葵が現れる前は特に希望の雑誌はなかったのかな? 師匠の牧野先生はA誌と同社の別雑誌、ということではあるから、純がA誌を目指さなかったらそっちに行っていたかもしれないし、アシスタント続けて、自分の漫画はコミケで出すとかしてたかもしれない。

純にとってのA誌は、「古印葵がいるから」が最大の魅力だったんじゃないかと思うけども、がんばってデビューしたら肝心の古印葵がいなくなったことに対して何を思ったんだろうか。

純の元担当は現局長らしいから、むっちゃ優秀な人に担当してもらってたと思うんだけども。古印葵がいないんなら、この雑誌やめる、みたいな“ワガママ”は言わなかったんだな、純。まあデビューしたての新人漫画家で売れてもないのに“ワガママ”は通らんだろうしな。純の連載の立ち上げは元担当で、今の桜木に担当が変わったのはいつだろうかな、去年の夏には桜木だけど。気安さの加減からはけっこう長そう。

純は自分の漫画の制作については、『プロットとネームだけは周りや時間が分からなくなるくらい夢中になりますね』と言っていて、快感に酔い痴れている。脳内麻薬が一番分泌される作業らしい。物語を作り上げるのが最高の快感のもよう。

『ペン入れ中はそんなでもないですめんどくさいし』『原稿が仕上がる頃にはもう見飽きて興味も失せてます』と、原稿を作り上げる作業は、本当にただの作業、になっているらしい。原稿として出来上がったものにはすでに興味がなくなっている、というのが興味深い。絵が出来上がっていく過程とか、完成した絵には興味がなく、ストーリーやら演出やらが一番ということなのかしら。

【第5話】でアシとの作業通話で『ご自身であのシーンを思いついた時は感動しなかったんですか?』に対して『自分の漫画ではまずないかなあ』『私は漫画のルーブ・ゴールドバーグ・マシンを考えてるだけ』『だから正直なんで売れてるのかよく分かんない』と言っているけれど、【第20話】の『どんなに気持ち良くても漫画は私しか救わない無能の紙屑だし』というのが、「なんで売れてるのかわからない」理由なのかしら?

自分が作り上げたルーブ・ゴールドバーグ・マシンがどんなふうに作用したのか、には多少興味があるのかどうなのか、アシにリサーチと称して聞いてはいるけど、【第1話】では『自分の漫画の内容を他人から語られると恥ずかしいよね?』とか言ってるから、このリサーチってば、内容を語られないように話を逸したってことかしらん? とは前にも考えてた気がする。(と、「他人」と表現してるところに他人かぁ……みたいな気持ちにはなった。ついでに『関係ない』のモノローグの位置がちょうど矢晴の首筋のキスマークがありそうな場所にかかってるのが気になってきた。すごく気になる。そこにキスマークあるの!? ずっとつけ続けてるの!? ねえ、ねえ!)

んでも、壮大な仕掛けを作ったら、読者がその仕掛けにまんまとハマるかどうか気になるもんじゃないのか……? 純にとって「ルーブ・ゴールドバーグ・マシンを作り上げる自慰行為」だからその後は知らんぷいぷいって感じなのか……?

純は自分の絵がそんなに好きじゃないから、純がプロットとネームつくって、矢晴がペン入れするのが一番良さげな気もするけど、純が惚れこんでる古印葵の漫画は矢晴の考えた物語と矢晴の絵になるから、全部矢晴が描いた漫画を読みたいだろうなあ。

と話がそれた。

めんどくさいペン入れやって、自分が見飽きて興味を失った漫画をありがたがって読んでる読者を馬鹿にしてるのかもしれないな……という気分にもなってきた。純には見飽きた代物でも、読者にとっては面白い望海可純の漫画なんだから、売れるだろうよ。

そしてまた『自分しか救わない無能の紙屑』という言い方も面白いなと思う。そんな紙屑が7億生んで純の漫画に専念できる優雅な生活を支えているというのに。そしてまた出版社をはじめとしてあらゆる経済に貢献しているというのに。ついでに【第10話】で矢晴に『その野暮ったさに救われてる人は大勢いると思いますよ…』って言われてるのに(救うの意味が違うけど)。

あと、「無能」って聞くと【第6話】の過去話も自動で思い出されるんだけども、「漫画なんて人の命を救うこともできない紙屑」という考え方でいいのかな、これは。純を気持ちよくさせて純の生きる理由にはなってるから純の命だけは助けてる、ということで? もしかして、自分の漫画に込めた手紙が矢晴のもとに届きもしなかったとか、矢晴の命すら救えない紙屑とかそういう方向の話になってるのかな。

ここのシーン、純は「人として人命を優先して漫画を忘れる」という話を笑われてると思ってるのかどうなのかはちょっと気になる。担当は大ヒットして莫大な利益出してるものを「無能の紙屑」って言ったことを笑ってるはずだけども。おもろいわぁ。


純の漫画と人の命とに対する考え方が、なんかどうも、そのうち純の精神を引き裂きそうな気がしてしまうんだけども、1年後に男前に漫画で描いて返すって言ってのけるくらい元気なんだから、全然だいじょうぶなんだろうな、とは、思えるかなあ……?


そしてまた、読みながら「キッ」に見とれてしまう……。ほんと好き、この矢晴の顔。


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