理由

 純が漫画を描く理由としては、描きたいから、以外にない。けども、【第20話】で担当に話した『創作依存症なんですよ私』は描く・描きたい理由になる気がする。

『脳からヤバイものがドバドバでてきて』気持ちいいから、漫画を描く。

気持ち良くなかったら漫画には見向きもしないのかな、と思うと、『漫画を作るより大きな快楽』は必要ないだろうとも思う。けども、いまのところ、「矢晴と両思いになるためには矢晴との性行為に漫画を作るより大きな快楽がなければならない」、と思ってしまっている模様。

【第19話】では、『私が漫画を描く理由が見つからない』『私と床の埃の見分けがつく奴はいないだろう描く理由がない』と矢晴が言い、『創作に〈理由はいらない〉のに』『〈理由が見つからない〉ってどうこいうこと? なんの意味があって見つけようとするの?』と純が詰め寄る。『君は〈描かない〉「理由」をそこらの道端から拾い集めてるな?』と言い当てられたのか、矢晴がどんどん崩れていく。『なぜ君は創作する「理由」を探すんだ?』と純が言うコマでは、純自身が大きな光になったようなイメージで矢晴を圧倒している感じ。

矢晴自身は「描く理由を探している」というよりも「描けなくなった自分に納得するための理由を探している」のかな? と思える。『私は自分が何故なにもしていないのか』『その理由を探してばかりいるだけだ』と言うし、【第13話】の同居21日目にも『吐き出したいことを純に伝えれば』『私は漫画を描かなくて済むんだ』と言うし。

なんだかんだ理由をつけては描かないで済む、と思いたいところで『君は〈描かない〉理由をそこらの道端から拾い集めてるな?』と純に言われてしまうのは、キツイね。

描きたいけど、描けなくなった。それは何故か。描きたいけど、描かない。それは何故か。まあ、描きたいなら描きなよ、しか言えないんだけど。もう衣食住足りてるし、時間はたっぷりあるし。でも描けない……ってぐだぐだしちゃう。「描きたくない」って言葉は出てこないのよねえ。描きたいもんねえ……。


A誌での連載で、自分で自分と自分の大好きな漫画を裏切った、とか、踏みにじった、という気持ちがあったりするかしら?と、ついつい自分に寄せてしまう。それだと描きたい・描きたくない以前に「描く資格がない」に思考が向かう。

もし、矢晴が「自分は漫画を裏切ったから描く資格がない」という方向に思考が向かっているとしたら、純が『他人に許可されないとやってはいけないことを君はしようとしているのか? 違うだろ?』と言うけれど、矢晴は「自分に漫画を描いていい許可を出せない状態」にいるから、“わがまま”に「描きたいから描く・描きたくないから描かない」で済む話ではなくなってるよなあ……とは思える。

ここらへんは、完全に自分に寄せて考えてるから、矢晴の「理由」はまた違うところにあるんだろうな、とは思うけど。


矢晴は『寝るより食うよりナニするより漫画を描くのが好きな人間が漫画で億を稼いでる空間じゃ』『私と床の埃の見分けがつく奴はいないだろう描く理由がない』と誰の目を意識しているのかよくわからないけども、目の前の「矢晴の漫画がこの世で一番好き」な古印葵ファンの純の存在をきれいさっぱりどこかにやっているのはなんでなんだい? と聞きたくなる。

そりゃあ、目の前の、超売れっ子で15巻のコミックスが累計1400万部を突破して、既刊が増刷され続けて新たに収入を生み続け、新刊の発行部数が増え続けて一度に手にする収入がすごい額になっていて、さらにはアニメ化して、さらに広く一般に流布する、大衆が求める作家先生が、コミックスを2冊しか出せなかった零細の超マイナーな作家を好きとか矢晴にとっては信じられないことでもあろうかと思うけどーー。

ってか、純を侮りすぎてて、古印葵ファンってところを無視してるのか、純は古印葵のファンだからってところに胡座かいてて見えなくなってるのか。同業者で自分より売れてて羨ましいから、売れてない古印葵のファンだなんて馬鹿にされてるみたいで嫌だったりするん?

なんだよもう、古印葵の作品読みたいけど無理強いしちゃいけないからって我慢してそうな純を無視すんなし……。

純が古印葵の漫画を読みたいってのは、矢晴の描く理由にはならないのかなあ。でも描いたら読ませてくれるんだから、矢晴、やさしいね。

矢晴のプライドの高さだと、ブランクでボロボロの絵〜なんて不満点しかないようなもの、人に見せれるとも思えなかったりするけど、読ませてくれるんだ……わぁ。

あ、でも純に褒められても関係ないんだもんね……。矢晴ったらもう!

と、話がそれたまま終わる。


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