純と矢晴の両想い

 純は、かなり自分本位ではあって、これまで誰かと想いが通じた経験もないし、そもそも誰かを想ったこともないということにはなるけども。古印葵への想いも一方通行で片想いといえば片想い。

そしてたぶん、純の言うところの“両想い”は、自分の希望を推し進めて、自分の手に入ったら“両想い”になってしまっている。相手の想いとか関係ない。むしろあの話のなかで『両想いになるためならなんだってする』『創作にだって人にだって同じだよ』と言ってしまう辺り、「手に入れるためだったらなんでもする」って話だし、矢晴を人間扱いしていないことになっているんだが、気づいているのか、純?

好きになった相手から好きになってもらうためになりふり構わずアタックする、って状態でもないぞ、純。

矢晴は『世間で言う両想い』と自分の考えではない、世の中で言うところの“両想い”を語るけども、恋愛漫画を描いてきて、恋愛の物語が好きな矢晴にとって、両想いや恋愛に関しての純の態度は我慢ならんだろうなあ、と思える。

矢晴の言う『それこそ食う寝ると同質の欲求の合致が世間の言う両想いってやつなんだよ』という話にもいささか納得しかねるけども。

『お前はあの日私の強請(ゆす)りに応えただけだよ』――純は矢晴のこと好きでもないけど、矢晴が言ったからキスマークつけただけ。

『言われて従って思い込んで成立する? そんなものなわけあるか』――矢晴がキスマークつけろって言ったから従ってキスマークつけて、矢晴が性欲だって言ったから性欲だって思い込んで、だから自分には性欲があって矢晴から好かれてるからキスマークをつけろって強請(ねだ)られる、ほら、両想い。んなわけねーだろ。

って確かにねえ、と納得はする。

いやまあ、そもそも矢晴は純のことを好きだと言ったのか……、純は矢晴のことを好きだと言ったのか……、話はそれからだ、みたいな気分ではあるけども。

お互い好きあってたら両想いでいいじゃんよ、と思うんだけども、純は両想いに至るスタートラインにも立ってないのに、ゴールしたつもりになってる感じね。


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