矢晴への思い
純の矢晴への思いの出発点は、古印葵の漫画に心を掴まれたことではあるけど、古印葵の漫画は矢晴の思考・感情・忘れたくないものの凝縮したもので、矢晴の魂の欠片に心を掴まれた、という感じではあるまいか、と思う。
授賞式で矢晴のスピーチを聞いて、【第5話】『古印先生が忘れたくないもの……』と古印葵の漫画に込められたものに思いを馳せ、壇上の古印葵(矢晴)の姿を心に刻み、サインをもらいに行ったけども、古印葵には彼女がいて、幸せそうで、自分の手の届かない・手に入らない人で、ファン以上の人間にはなれなくて。
漫画家としてデビューできて、並べる人間になれるかと思ったら、古印葵はどっか行っちゃうし作品出てこなくなっちゃうし……辛いなぁ……。
ファンとして作品を読んで、ファンとして布教活動に勤しみ、ファンとして……、と自分の気持ちを慰めてきたのかなあ……? とは思える。
古印葵の漫画と出会ってから、純のなかで古印葵が一番で、壇上の矢晴を見てから矢晴が一番になってると思うけど、同居して一緒に暮らして、“両想い”と思い込んだ、いまもまだ「手の届かない人」という意識は抜けてないんじゃないか、と思えたりする。
純の言う「“わがまま”で“両想い”になるためならなんでもする」には「自分自身を矢晴に好きになってもらう」という意識がなくて、「好きな人を手に入れるために手練手管を尽くした」感じはある。
うん、それじゃあ、“両想い”じゃないですねー。
性欲の合致の部分は置いといても、お互いがお互いを好きで、好き合ってるからの“両想い”にはなれない。純のばーか。
矢晴が好き、という純の気持ちや、矢晴の命を助けたい、矢晴と一緒に暮らしたい、幸せになって欲しい、暖かくて肌触りのいい場所で死んでほしい、などの矢晴への思いもまったくもって純の正直な心からの思いではあるんだろうけど、これまで人を好きになって両想いになったことのない純は、矢晴から向けられた好意を受け取れてないんじゃないか、と思えたりする。矢晴も恥ずかしかったりしてまっすぐ純に「好き」とか「愛してる」とか言わないだろうしさーあ。
そもそも、純の「3次元に欲情しない」は「人間を恋愛的に好きになったことがない」のだろうし、自分の気持ちが恋か愛か憐れみか、自分の行為が恋愛か施しかの区別もついてないんだろうなあ……。
ずっとずっと、矢晴のことを思い続けてきたけど、“両想い”になれたのは束の間で、また手の届かない人を思い続けるみたいな状態に戻っただけで、でも一緒に暮らせてるから自分のできることは全部したい、自分の思いは報われないのが当然だから、みたいな状態になってるなあ、と、考えると、純も不憫だけど純の愛し方が一方通行でそりゃあ、「お前と両想いになれる奴はいない(キッ)」ってなるわさ、と納得はしてしまう。
振られたと思っている今は、矢晴の命を助けることが最優先になってるんだろうなあ、好きな気持ちはしまいこんで……、と思えるけども。あの会食時の矢晴への対応とか矢晴の反応を見るに、矢晴のほうには振った意識がなさそうで、端から見ててちょっと面白い関係よね、って思える。
あと、純はこれまで「人から告白される」とか「人から恋愛的に好きになってもらった」とかの経験自体もなさそうだなあ、と思う。あまりに見た目がハイスペック(高身長・美形)だから周囲から遠巻きに見られていたのか、見た目が女子の目を引かない(太っている・醜い)から好きになられたことがなかったのか。
どうなんだろうなあ、と気になったまま終わる。
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