振られた理由

 純がかなりがんばって、“好きな人に振られた”理由を自分に納得させようとしているなと、思える。

もともと、純は、「“それ”ができないから一生を共にできる人を得られない」という考えが強固に根を張っている感じではあるかと思うんだけども。

人間に欲情しない・できない・したことがない、という“それ”が“好きな人に振られた”原因で、自分がなぜそういう人間なのか、と突き詰めて考えた結果が、『創作依存症なんですよ私』になっている。

「創作すること以上の快感を見いだせないから、人間に欲情しないんだ」と自分を納得させることによって、矢晴に振られても当然なのだと思い込もうとしている。

ただ、矢晴のことを“好きな人”と表現するけども、まだ矢晴と性交渉したい、とまで思っていなくて、欲情にまで至っていないんだろうなあ、とは思えるんだけど。欲情する・しないなんてのは、“好き”の気持ちについてくるオプション程度のもので、つけるかつけないか、ついてくるかどうか、って別じゃない? みたいには思う。

ただ、矢晴自身は恋愛的に相手を好きになったら、自動でそのオプションが搭載される人ではあると思うけど。

矢晴の恋愛的な“好き”には性交渉がセットにされるから、純の性交渉がセットに含まれない“好き”は友情の域を出ない、とかいう分類は可能かもしれないなと思うけど、純の矢晴への気持ちって、矢晴が思うよりもずっとずっと重いし深いし、この世の至上ってくらいに高く掲げられちゃってる感じもしないでもなく。

でも、純は、欲情するオプションが自分の“好き”に搭載されてないことによって、“好きな人に振られた”、一生を共にできる人が得られない、という考えをさらに強めてしまった感じ。

矢晴に『食うより寝るよりナニするより漫画を描くのが好きな人間』と言われた純が、矢晴に対して『創作に〈理由はいらない〉のに』と詰め寄った人間が、「快感を得られるから創作する」「創作をすることによって得られる以上の快感はこの世にない」と理由をこねくりまわしているようにも思えるんだけど、どうなんだろうな。

矢晴はたぶん「誰もがみんなお前みたいに恵まれた環境にいるわけじゃない」と言いたいんだろうなと思うんだけど(恵まれた環境にいようといまいと、創作するのに理由はいらないけど、創作にあてる時間・お金がない・創作に対する心を他人に潰されるといった創作できなくなる理由はいくらでも涌いて出てくる)、それを純は若干曲解して「私が創作依存症で漫画を考えることがこの世の一番の快楽だと思っているから人間に欲情しないし、矢晴に振られた」と導き出してしまったんじゃないかと、思うんだけどなー。

矢晴に『お前と両想いになれる奴はいないよ』(キッ)って言われた理由ったら、純が「矢晴はつまらないプライドで見栄っ張りだから素直に好きって言わないけど、私はわがままで自分に軸があるから両想いになるためになんでもするよ」って矢晴を辱めた報復なんだが。

その直後に『「差別的なことを言ってごめん」って大泣き』できた矢晴は、えらいなあ。でも純は矢晴に振られたんだって思っちゃってるけど。

『お前の言う両想いと世間の言う両想いってたぶん違うよ』と『それこそ食う寝ると同質の欲求の合致が世間の言う両想いってやつなんだよ』『お前は違うだろ』と矢晴に言われたから、純は「漫画を第一に考えてる自分は人に欲情しないから矢晴に振られた」になるんだろうし、『お前は違うだろ』のフォントの大きさからして、純は自分が「通常の人と違うから、振られた」にもなっている感じがする。「欲情しない・できない自分は異常」って方面が強化される。

矢晴に振られたのはなぜか、から出発して、『創作依存症なんですよ私』に到達した感じはすごくする。創作に快感があるのは当然だと思うんだけど、それが異常なレベルだから矢晴に振られたと思い込みたい。

矢晴が本当に純を振ったのかどうか、純と矢晴はお互い好きあってる両想いじゃないのか、矢晴にちゃんと確かめたほうがいいけど、矢晴は恥ずかしがって答えてくれなそう……。

それから5日後(矢晴が立ち聞きして純が振られたという日から5日後、純と担当の食事から3日後)の会食時の、あの親密さとか、いつもと雰囲気が違ってるんだよと四六時中純を見てます的な『ていうか純…お前なんか今日胡散臭くないか?』の感じを見るに、別に振った振られたで関係がぎこちない感じもしないわけだし。むしろ、女性陣に対して矢晴が純との親密さをアピールしているようにも……、というのはさすがに欲目が過ぎるが。


いやほんと、純は、矢晴が自分と両想いじゃないのかどうか、好き合ってる同士じゃないのかどうか、ちゃんと確認しておいで?


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