命より
純が担当に「つまりその人の世話で時間がなくなって原稿がおくれたと」と言われて『ええ』『ん?』『……』と話の流れのなかで、矢晴の世話のせいで原稿が遅れてると生返事で純が肯定してしまっていての『ん?』『……』と考えているのが、その後の展開に効いてきてるなと思う。
部屋の外から、通話相手の声がどれほど聞こえるのかはわからないけど、この会話を矢晴が聞いていたなら、「矢晴の世話で仕事が遅れていると純が認めた」ということを矢晴は知っているということになるけれど。
担当は、その生返事で、純の時間を奪う悪い人間、みたいな印象を持ってしまったのか「なんで望海先生が世話しなきゃいけないんですか? その人出てってもらった方がいいでしょ」「実際マンガのおくれがでてるわけでしょ?」「仕事にへいがいがでるなら出てってもらいましょうよ」と、矢晴の状態なんかも知らずに軽く言う。そりゃまあ担当編集なんだから、望海可純が漫画を描く時間を確保するのが仕事だけども。
それで純がわりと遠慮がちに、なのか、慎重に、なのかわかんないけど、原稿を描く手を止めて、電話に向かってしっかりと、『あの……それは違うと思います』『人の命より重い漫画ってこの世にないので……』と言う。
純は矢晴の命を救うことが一番大事で、自分が漫画を描くために、「矢晴を追い出して路頭に迷わせ、挙げ句の死」とかは許容できない感じ。天秤としては、矢晴>漫画にはなってるけど、「人の命」という大きい括りに、外で聞いてた矢晴は自分のことを大事にされてると感じたのかどうかは謎だなあ……。
でも、立ち聞きして気になって、自分の存在が純の時間を奪っていると自覚した矢晴が純にその話を切り出したのは、えらいなあ、と思う。純はもしかしたら矢晴が出ていくって言うかもとか思って、原稿は落とさないって怒ったのかもしれないな、と。矢晴はどうするつもりで話しだしたのかわかんないから、最後までゆっくり話し合いが続いてほしかった。それこそ、「矢晴が出ていくのはナシで、ふたりで解決方法を探そう」方面に行ってほし……、共同作業……。
命がどうの、というと【第17話】で純の脳内会議で『あの家から出さなきゃ死んでたのに些末なことをぐちゃぐちゃ言うな!』とか『命よりも自分が正しいマンはここに立つな』とか。純にとっては、「人の命がなにより大事」であるらしい。
その気持ちがただの道徳観念であるのか、どうか、と考えると、子供時代の父親の死、学生時代の同級生の死、が色濃く影響を与えているような……? ここらへん、後々明かされるかな。
矢晴の世話で、純が時間を取られているのは確かだけども、矢晴の話し相手の時間は純にとっても大事な時間だけど、病院の送迎や付き添いに関してはヘルパー雇ってもいいんでは? という気がしないでもない。でも、全部自分でやりたいんだろうな、純。
人の命を助けるために身を削って、人の命を助けてるせいで仕事がって言われたくないから仕事もがんばって身を削って、自分の命が脅かされてる気がするから、ちょっとそこらへん、純、気づいて?
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