【感想】第16話 上薗純、曰く その(4)

 思いがけず早い更新、思いがけず純曰く、そして、思いもよらなかった純の傾向で、かなり動揺しながらも、なんだかんだと落ち着いてきたので、感想書く前に更新が来た、ということがないように先に感想を書こうと思う。

はてさて、【第16話 上薗純、曰く その(4)】

表紙の全開の幸せそうな笑顔の純が花に埋もれて、棺桶にいるような気がしてしまう切り取られ方のカットに純の先行きに不安を感じる。以前の純曰く(1)(2)で見せた憂いを帯びたシリアスな表情に比べて、かなり知能指数の下がった風味の全開の笑顔。これはこれでかわいいけども。

花に関しても知識がほぼなく、また絵になってしまうと余計に判別がつかないので、純を取り囲む花々にもなにかしらの意味が込められているのかもな、とは思うが、よくわからない。

そして、本編。

『実在する人間に欲情したことがない』というセクシュアリティに関する悩みであるのかどうなのか、ちょっと保留しておきたい気分になるモノローグから、純のこれまでの心境が語られて、「他人をもっと特別に見たい」「ずっと一緒に居られる人がほしい」といった純の望みが語られる。

「ずっと一緒に居られる人がほしい」=「死ぬまで孤独じゃなくなる約束ができる相手」ではあろうけども、純はなんだかいろいろ順番ごっちゃでとっちらかってる感じがする。

【第15話】で矢晴に『もうそれ性欲だろ』と、思春期からこれまでの人生で渇望していたラベルをもらったからか、『もう何も怖くない』という思考とともに『私』『それがいいな』と。矢晴視点からは恍惚とした表情だったけども、純視点では自身の表情に関する認識がないからか黒ベタで。

純はなにが怖いんだろう……とは、ずっと思うのだけど、孤独が怖いのか、他者と違うことが怖いのか……。

驚いたような怯えたような表情の矢晴が怒りを取り戻して殴る。『ムニッ』がえらいことかわいい。手加減したのかどうなのか、非力。たまらん。

矢晴は『違うなら違うって言えよ!』と言うけども、違うと言われたらどう思うんだろうか……安心するのか? そうだって言われても違うって言われても、矢晴にとっちゃどっちもドツボな気がするんだけど、さすがに純は軽く想定を超えてくる。

『正しい正しくないの話じゃない』〜『私はあなたの言葉を着たい』と、古印葵への狂信、狂気が恐ろしい。ただなあ……、古印葵の言葉で思考したいっていうよりも、「古印葵なら自分の求めるものに自分の欲しい名前をつけてくれる」って感じで、やっぱりなんかズレてる気がする。純が古印葵のどこに惹かれて何が好きなのかよくわからんくなってきた。

そして、雨。けっこう強く降る雨音と、矢晴の激情がシンクロしていくような。

薬の飲み忘れに気圧の変化で、矢晴の症状もなかなか大変なことになっていたのね……と、後から思う。前日から朝から昼からずっと大変だし。

矢晴が落ち着いて見える感じで、純との出会い、編集部で会った時の印象を語る。優しい人かと思ったけど四階への攻撃性がいつ自分に向くかと怖くなった、と。【第3話】では『こいつとは関わらないほうがいい』と離れようとしていたけども結局同居することになったし、亡骸拾いたいとか言われたのも怖かったし、ずっと怖かったよね、矢晴。

純自身も自分が攻撃的なのは自覚してて、なお、「矢晴には攻撃的にならない」って言ってるんだから信じてやってくれよ……矢晴……、と思うんだけど。

矢晴が純を信じないのと、純が考えない人だって思ってるのとで、わからせたくて矢晴の言葉が熱くはなってくのだけど。やっぱりなんだか、ちょっとわからせようとするには回りくどい……気がするのと、あんまり見たくない話題だからついついさらっと読み飛ばしてしまうな……。

強い雨に打たれてる矢晴と、穏やかな晴れの中に咲く蓮に囲まれている純。

矢晴の話の内容はあんまり純には通じてなくて、純は別の部分で感動してて。それがまた矢晴を激昂させてしまっていて。でも、感情に任せて本音が出た分いいんじゃないのかな、と思ったりもする。そんなことで純は矢晴のこと嫌いにならんし。

かなりマイナス思考でなんでも決めつけた感じの矢晴の言葉や錯乱してるみたいな様子に、矢晴が薬を飲み忘れた回想描写が挟まって、『……夕食後の薬は飲んだ?』と冷静になる純がとても良い。えらい。ついさっきまで古印葵に酔ってたけど。

そして純が『今の矢晴の言葉は』『病症がもたらした言葉かもしれない……?』『その言葉を私が「良い」と言ってしまったらそれはつまり――』と焦りだす純がかわいい。ちゃんとわかってえらい。

攻撃しないって約束して薬を取りに行こうとする純が矢晴に胸倉掴まれて『ギェーー』って顔とかかわいい。『口約束は信用できない!』って矢晴は言うけど、どんな約束だって契約だって信用してないじゃないですの……とは思う。それが矢晴の病症だから仕方ないのだけども。

『矢晴が契約書になる?』『ここに』『印鑑捺そうか』『ハンコもペンも使わずに……』という言葉と矢晴のうなじに添えられた純の手が、エロいんよ……たぶん童貞なのに……。エロいんよ……ちょっと百戦錬磨にも見えるくらい……童貞のはずなのに……。

とか、思ってごめんな……って思っちゃうくらい、純が真剣な目で矢晴を見つめるのも素敵で。でも実は矢晴にはこの真剣な目が欲をはらんで見えてたりするかもな……とは思う。

純に気圧されて、落ち着いたのか硬直したのかの矢晴を置いて純が薬を取りに行くためにベッドを降り、理性的に話す全部が、ほんとに純が矢晴のこと大事にしてくれてて、純が素敵でかっこいい。『我欲に走って言葉をほしがって君を傷つけた』『私と一緒に住む君は不憫だ環境を変えよう』って、矢晴のためなら同居も解消するって、ほんとかっこよすぎて。自分が孤独にならないために矢晴を囲ってるわけじゃない、自分は二の次みたいな、ほんといい男だよ、純。

と、部屋を出ようとするのになにかがひっかかり、引っ張られ。

『?』と純が振り返ると、全力で純のパジャマの裾を掴んで引き留める矢晴が! 矢晴の泣き顔が、唇かみしめて真っ赤になって、かーわーいーいーー!

というところで、次回を待て! 矢晴がどんなふうに同居続行を純に願い出るのか気になる〜。

  • 『実在する人間に欲情したことがない』
  • 矢晴に殴られる純。
  • 『私はあなたの言葉を着たい』
  • 雨。
  • 編集部での出会いの印象を語る矢晴。純の攻撃性への恐怖。
  • 「壊れた車」「脳の再現」
  • 激昂する矢晴。
  • 錯乱状態の矢晴に薬を飲み忘れていることを思い出す純。
  • 矢晴を攻撃しない約束。『矢晴が契約書になる?』
  • 薬を取りに行くために部屋を出ようとする純。
  • パジャマの裾を掴み引き留める矢晴。

純が古印葵の何に惹かれてなにが好きなのかよくわからんようになったが、純が古印葵に狂いすぎていることだけはわかる。

古印葵に狂ってない時の純は冷静でかっこいい。病症激しく理性で言葉の取捨選択ができてないのにこの言語化能力……と考えると、素の矢晴や古印葵の一言二言の裏側に溢れる言葉の量も恐ろしいことになりそうな。すごい。

矢晴のために身を引こうとする純と、それを必死に引き留めるのに言葉が出ないでパジャマを掴む矢晴がとても良い。良い……。


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