再現

 純の言う“再現”は実際どんなものであろうかな。と考える。

技術的なこと自体は、仕組みを分析して理解できれば再現できる。四階の口調を真似たのも、再現であろうか。

なにがどう心を動かすのか、というのも分析しようと思えば分析できるものかと思う。分析できれば再現できるわけで。

純はそうやって分析と再現で、漫画を描いてきた、感じがするから、自身の情動を描き出す古印葵の漫画を読み解くだけの感情がないのかもしれない。感情はあれども、それを自身で分析、表現する術を持っていないというか。だからアシの木戸に『えー……もしかして先生って感情がない?』なんて失礼なこと言われてあの顔なんだろうな、と思ったりもするし、『私はあなたの言葉を着たい』になってしまうんだろうかな。

自分の心の中を見るのが嫌なんだろうかな、というのは、純が矢晴に言った『具体的に考えると狭義的になる』〜『自分の残酷さを直視しすぎると元気がなくなる』『元気がなくなることはしない』と自衛している感じ。

純は『……あんな相手にも〈それ〉ができるのか』『相手の脳を再現することだよ』と感動していて、『私は心を惹かれた相手やモノにしか〈それ〉ができないし』『矢晴に関しては底知れなくて把握しきれない』と言うけども、ここで純が言う「脳の再現」は「相手やモノに同調すること」だったりするのかな? 「相手の事情を考えること」だったりするのかな? よくわからない。共感とはまた違う、相手やモノのことを考える感じではあると思うのだけど。そこまでの深さはない感じがする。

矢晴の語りに感動してはいるけども、内容に心震わされたわけではないあたり、純のおかしさも際立つけれど。

「え、あんなクソ野郎の来し方行く末まで考えちゃうの? 矢晴、すげえ……」みたいな感じではあろうかな。矢晴の話は「四階個人の」というよりも「四階みたいなクソ野郎が作られる世の中」の話にはなってる気がするけど。

矢晴は純が見ようとしない深みまで見ている感じはするし、その深さが純の触れない部分に触れていくんだろうけど、純はその深さまで行けない(無意識の自衛がストッパーになっている)から、純にとっての矢晴は『矢晴に関しては底知れなくて把握しきれない』になるんだろうな、と思う。ここで言う「深み」は社会の裏側とかでなくて、感情のこと。

ただ、今の矢晴はネガティブの根が深すぎて、それについていこうとすると純が壊れちゃうと思うから、今はついていかない感じでいいと思うんだけども。


純が同居6日目の思考の共有のときに、矢晴の質問に答えられなくて誤魔化した『それが矢晴さんの漫画の才能ですよ』が今後どう作用してくるのかが気になってきた。純が本当に「矢晴には社会の仕組みに関する疑問や葛藤を命題や下敷きにして物語を構築する才能がある」と言っているのかどうか。

誤魔化した、と言っているのだから、わりと適当ぶっこいた、と思えたりするんだけども。


コメント